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雨の音を聞いたら、青春の1ページを思い出した。

梅雨が始まった。雨の音がする。しとしとぽつぽつ。
雨は嫌いじゃないけど、好きでもない。心が元気な時に降ると、ロマンチックでおしゃれな気持ちになれるけど、心が元気じゃない時に降られると、どんよりした、もう生きていくことがツラい…なんて気持ちにもなりかねない。だから、好きでも嫌いでもない。
今日は、心が通常運転の日。元気でもないし、元気じゃないわけでもない。だから、雨を見ても雨の音を聞いても何とも思わない。だけど、ある日のことをふと思い出した。

あれは、小学校4年か5年生だった時のこと。
私は、転入生で隣の隣のそのまた隣の町からやってきたみんなの注目の的だった。自分で言うのもなんだけど。ほんとにそうだった。休み時間になるとませた気の強い女子たちが、私の机の周りを囲む。「もえちゃんは、なんで引っ越してきたん?」「何人兄弟?」「どこに住んでんの?」人見知りだった私は、じーっと机の木目を見つめて、線の数を数えるばかりだった。

ある日、雨が降った。通り雨だった。傘を持ってきていなかった私は雨の中を帰ることを躊躇していた。それを知ってか友達の”サキッチ”が「教室で雨止むん待とう」と言ってくれた。サキッチは折り畳み傘を持っていた。優しい子だ。
教室に戻ると男子たちが5~6人、室内でボールを投げあって遊んでいた。
「うわ!なんで戻ってくんねん!ダル!」そのうちの一人が言う。「しゃあないやんか!雨降ってんねんから!」サキッチは本当に心強い。「隣の多目的室空いてるからそっち行こう」鍵が開いていたこと、誰もいなかったことを確認してサキッチを誘った。「あ、ホンマ?そうしよ!」
だだっ広くて、一面カーペットが敷かれた部屋で二人。地べたに腰掛けながら何でもない話をした。とても楽しかった。

「あの、、、ちょっといいですか?」さっきのグループからひとり話しかけに来た。「何?」さすがサキッチ。すぐさま返事をしてくれる。「いや、お前じゃなくて」
(え、私?)とても嫌な予感がした。「あのー、ちょっと、友達が話あるらしいから、、教室の方来てくれへん?」「なんやねんな、呼び出さんと自分がこっち来たらええのに。なあ、もえ!」「う、うん」
「ごめんやけど、すぐ済むから!」そう言って男の子は教室に戻っていった。
サキッチと私はブツクサ文句を言いながら多目的室を後に、教室に戻った。

教室に戻ると、さっきのメンバーが黒板の前にズラッと並んでいた。
「なによ!なにを並んでんの!気持ち悪い」サキッチが言う。
「お前うるさいって。ちょっと黙って」端にいるさっきの男子が声を押し殺して言う。
「話って何?」精一杯の強気を出して私は言った。
すると、真ん中に堂々と立った男子が話し始めた。

それは、いわゆる告白だった。甘酸っぱかった。彼が話している間だけ時間がゆっくり流れている感じがした。大人数の前でかなり緊張しただろう。気持ちを言葉にするということは難しい。声に出すのはもっと難しい。耳をふさぎたくなるぐらい恥ずかしかったけど、それと同じくらい嬉しかった。たかが小学生、されど小学生。大人になった今もその瞬間のことを鮮明に覚えている。私も彼が好きだった。

「私は、好きちゃう!大っ嫌い!」
わけがわからなかった。とにかく恥ずかしかった。逃げ出したかった。真っすぐで嘘が無くて優しい彼の告白があまりにも、こそばゆくてたまらなくて、どうしようもなかった。真っ白、純白な彼のことばや気持ちを一瞬にして濁らせるような真っ黒、漆黒なヒドイ言葉を吐いて、私は駆け出した。
あたふたしているサキッチ、茫然と立ち尽くす男子たちが車窓から見る景色みたいにスローに流れ、やがてスッと消えた。

外はまだ雨が降っていた。空は明るくて変な天気だった。私はひとしきり走って足を止めた。(なんて心無いことを吐いてしまったんだろう。ヒドイ事をしてしまった。許されないことをしてしまった。一緒に雨が止むのを待ってくれたサキッチをも置き去りにして…)反省が止まらなかった。しくしく泣いた。スカートが濡れて、色がどんどん濃くなっていく。

すると背後から、人が走ってくる足音がした。(サキッチだ。)涙を拭いながら振り返り、謝った。「ごめん、ほんまにごめん。追いかけてきてくれてありがとう」

そこにいたのは彼だった。傘を片手に、追いかけてきてくれたのはサキッチでは無く彼だった。「濡れるで。途中まで一緒に帰ろう」さっきまでの出来事を感じさせないくらい優しく微笑んだ彼はそっと傘の中に私をいれてくれた。








【あとがき(?)】

こんにちは!こんばんは?おはようございます?はじめまして!
この記事を最後まで読んでくださり、ほんっとうにありがとうございます。
こうしてnoteを通じて出会えたことにも感謝!!
本記事は、実話を元に書いたものです。一部記憶が美化されていたり、実際と異なる部分もあるかもしれませんが、本当にあった私の青春の1ページです(笑)
いやあ、しかし甘酸っぱいなあ。普段はおちゃらけたムードメーカーな彼でしたが、実は気持ちを言葉や声にして伝えられる男気や、さりげない優しさを持つ男の子だったんだなあと大人になった今改めて思います。
ところで皆さんは、ふと思い出す青春の1ページはありますか?

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