読み解き、初歩。
読解力って何だろう?
そう思った事はありませんか?
自由に解釈すればいいんじゃないの?
それもひとつの正解だと思います。
でも、同じ文章から、ほとんどの人が、ある程度は同じ意味を読み取れていないと困る場面もありますよね。法律や、競技の規定等々……まあ、それも解釈で揉めるものではあるのですが……
ジャンルの暗黙知があるのとないのとでは趣味を楽しめる深度が変わって来る、と言えば私の意図をお判りいただけるかなぁと思います。
その場のルール、「お約束」ですね。
コンサートや舞台を観覧するにも、ここは沈黙、ここは声援、誰々さんが出てきたらこのコール、みたいな「お約束」はありますし、漫画やアニメや小説などにも「お約束」はありますよね。歌舞伎や能にも「お約束」はありますし、絵画に描かれるモチーフにも「お約束」があります。
さて、もちろん、文章に使われる言葉にも「お約束」があるのですが、うちの旦那と、相互のSさんから「よく分からない」と言われたので、「言葉のお約束」を説明する為に、私の好きな曲↓
SWALLOW『ULTRA MARINE』
……の、歌詞の読み解き(考察)をしてみようと思います。
※太字の部分、SWALLOW公式YouTubeのリンクです。とっても素敵な曲なので、ぜひぜひ聴いて下さい~( *´艸`)
ちなみに、うちの旦那、『ULTRA MARINE』の歌詞の意味が分からないって言うんで、ちょっとビックリしたんですわ……
この歌詞を読んで「最近の歌は不思議なのが多いね。『ULTRA MARINE』も恋の歌でもないしね」なんて言うんですよ。
いやいやいやいや、これは恋の歌ですよ、歌詞ちゃんと読めっ!!
文章は伝えたい事があって綴るので、そこで使う言葉は、あてどなく選んでいるわけではなく、単語ひとつひとつ、伝えたい事を伝えられる意味を持つものを、読み手に、より正確に「その物事」をイメージさせようと工夫に工夫を重ね、目当ての意味を持つ言葉を幾つも連ねる事で壁や柵や濠を作るように文章全体の意味を狭めていき、伝えたい事がなるべく正確に伝わる事を目的として厳選されています。
例外もあるかと思いますが、大多数の書き手は「伝えたい何か」があって書いているはずです。何らかの信念信条を持っていて「自由に読み取ってください」と言う人もいますが、そういう信念信条でない場合、なるべく正確に読み解いてもらえないと、伝えたい事が伝わりません。
そうなると言葉本来のツールとしての価値を毀損します。言葉というものは情報をより正確に伝える為に生まれた物なので、その存在意義を活かした使い方をするのが自然でしょう。
そして歴史/文化の中での、文章/文学のみに限らない芸術全般には、この言葉/意匠が出たらコレ、みたいな暗黙のルールがありますよね。必然的に「どれだけモノを知っているか=読解力」という事になります。図像学や俳句の季語のルールを思い出していただければよろしいかと……
だいぶ脱線してしまいましたので本筋に戻ります(;´∀`)゜
タイトルで……
『ULTRA MARINE』は比較的 理解しやすい 親切な歌詞だと思います。
工藤帆乃佳さんの真っ直ぐで純粋な強い情熱を感じますね。
タイトルですでに『ULTRA MARINE』=「ウルトラマリン」って言ってるので、世界で最も高価な絵の具「ウルトラマリン」(ラピスラズリから造られる、フェルメール・ブルーとしても有名)を想起すべきです。
「なんで?」って言ったら負けです。
もう、そういう「お約束」なのよ~っ(*´ω`*)
これは一般常識であり、備えていなければあかん知識、教養です。
歌の最初の部分で……
……と、「深いこの青」がただの色を指しているわけではなく、高価な絵の具のウルトラマリンを指していると補強して説明してくれていますね。
「惜しみなく使って」というのは、いっぱい使うには惜しいモノであるという意味です。
安物に対して「惜しみなく使って」とは言いません。
歌詞の三行目で、すでに、ウルトラマリンが高価な絵の具を指している事は確定しています。
さらに…
はい、これ、トドメですね。
「どれだけ貴重でも」「高価でも」
ハッキリ言い切ってますね。
お値段めちゃくちゃ高いですよーっ!!
ラピスラズリのウルトラマリンです。それ以外ありえません。
他にも……
言ってますね~、「1番高い色」って。
世界一高価な絵の具、ラピスラズリのウルトラマリンです。
しかも、ここは美しいダブルミーニングですね。
素直に位置的な高所も表していて、成層圏を突き抜けて遥か空の彼方まで聞き手の心を連れ去ってくれる勢いと強さ、潔さがありますね。
カッコイイ~。
これだけ情報が詰め込まれているのに、ウルトラマリンが何か分からなかったら、そりゃ、おめえ、ヤベーよ……
恋の歌である事については、もう無粋なので「全体を読め」としか言いようがありません。
早い段階で「心が惹かれていく」という文言が出てきますし、素敵な想い人を褒め称える、憂いを含んだうっとりするような愛の告白が続くので、
「海の景色を描いた歌じゃねえからな」
と、声を大にして申し上げておきたい、うちの旦那に。
説明の必要も無く美しい恋の歌なので、読み解きが趣味の皆さんは、どうか、ご自身で歌詞を読み、深いSWALLOWの世界を堪能していただきたいと思います。
とは言え、恋愛を描いた部分にまったく触れないのは私が寂しいので、何ヶ所かの、特に文章の「お約束」が分かり易かった部分と、個人的に印象が強かった部分にのみ触れます。
まずは……
はい、出ました、恋言葉の真骨頂「真珠」です。
「真珠」が出たら、ほぼ「涙」です。古今東西、真珠ほど涙の比喩に使われる言葉は無いでしょう。何千年使われても色褪せない、麗しい人への敬虔な賛美や瑞々しい憧れのこもった綺麗な言葉ですね。
しかも、「触れてみたい」と言っていますね。どうでもいい人の涙になんか触れたいですか? 涙って体液ですよ? ちょっと嫌ですよね(;´∀`)゜
友人知人親類縁者または他人になら「ハンカチを貸す」あるいは男性的な比喩としての「胸を貸す」くらいで「涙に触れたい」とは言わないでしょう。
「涙に触れたい」というのは特殊、そして特別な欲求です。
涙に触れる時、相手と自分の距離は限りなく近付いています。
「涙に触れる=心に触れる」と言っても過言ではありません。
更には、「涙に触れている時」それは「相手の肌に物理的に触れている時」でもあります。
そんなの友人知人親類縁者または他人にやったら気色悪いですよね。
「恋している特別な人の涙」だからこそ「触れてみたい」のです。
さて、すでに、お気付きですよね?
なんと、この歌詞、女性への恋心を詠っているんですよΣ(・ω・ノ)ノ!
(※スミマセン、ここは100%断定はできません)
最初の言及では、性別は断定できないので、一旦、性別については棚上げにしたんですが、本当は……
「真珠」が出たら、ほぼ「女性の涙」です。古今東西、真珠ほど女性の涙の比喩に使われる言葉は無いでしょう。何千年使われても色褪せない、麗しい女性への敬虔な賛美や瑞々しい憧れのこもった綺麗な言葉ですね。
声の透明感が素晴らしい可愛らしいハイトーンの女性ボーカルなので、恋の歌なら男性に向けられた恋心だろうという先入観を持ってしまいがちなのですが、いえいえ……
これは、驚きの、女性への恋心(とも読み解けるの)です。
……と、断言しちゃいたかったです。
う~ん、しかし……
文章の「お約束」を敢えて破る技巧もありますし、最近は、男女平等思想のユニセックスな感覚で、真珠が女性の涙を示唆するというのは古くなっているかもしれません。
真珠の涙が似合う男性も世の中には存在しているかもしれませんし、男性への恋心を歌っている可能性もゼロではないです。
しかし、従来の文章の「お約束」で、感覚ではなく知識で読み解くと、真珠の涙を流すのは女性なのです。
※あくまでも「お約束」では「そうなる」というだけで、ここはちょっと違うかもと思ってます。
まあ、グダグダは置いといて、話を戻しましょう。
さて、様々な美しい言葉で切ない恋心を訴えた後、佳境を超え、歌詞はクライマックスへ突入します。
こちらです↓
ズバッときましたね。悲恋です、これ。禁断の……とまでは言い切れませんが、突き進めば不幸に至る、みんなには祝福されない恋です。何かしら多くのモノを失う事を予見させる物言いなので、この歌の主人公は、それまで属していた場にはもう居られないとか、それまでの自分ではいられないといった、暗く激しい変化に襲われる事を予想し、覚悟しているという意味です。
しかも、この様子……すでにだいぶ何かを失ってますね……
「これ以上」って言うって事は、「これまで」もあったって事です。
主人公が恋している相手は破滅傾向があり、深く関わるとちょっと良くない感じの人なのかもしれませんね。
順番を前後して、冒頭近くに戻りますが……
ここで……
……という表現があります。つまり、眼差しに影が落ちて暗くなる=憂鬱な表情になるような秘密=深刻な問題/悩みを抱えている人なんですね。
主人公は、そんな相手(現代詩なので、女性に限らず、男性である可能性もありますね)にどうしようもなく惹かれているのです。
(う~ん、主人公と想い人の性別が気になる所ですね。もしかしたら女性に恋している女性視点で、百合の可能性もワンチャンあるかもしれません。可能性は低いかなぁ……)
さあ、いよいよ結末です。
この歌の物語はここで幕を閉じます。
「夜もすがら」と言うからには、「一晩中」泣いていたという事です。
二人の関係はかなり深まっていますね。誰かと「一晩中」一緒にいるなんて、事故か災害でもなければ、稀有な事です。事故か災害があったとは歌詞の中で示唆されていないので、その可能性は除かれ、相手の意思で、この二人は一晩中一緒に居たという状況が導かれます。
「泣きつかれ」は「泣き付かれ」と「泣き疲れ」のダブルミーニングかなと思います。意味を確定させてしまう漢字表記を避け、敢えてひらがなに開いて意味を確定させなかったという事は、どちらの意味にも取って欲しいという意図ではないでしょうか。
「泣き付かれ/泣き疲れ」「眠る幸せ」という事は、この二人は寄り添って眠りについているのでしょうか。
あるいは眠ってしまったのは相手だけで、主人公は眠りについた愛しい想い人をそっと見守っているのでしょうか。
主人公は、恋する人に泣き付かれて、相手が泣き疲れて眠ってしまったその寝顔を愛しく見詰めているのかもしれませんし、悲恋の片思いをしているので、これまでも泣いてきて、自分も泣き疲れて、今まさに眠りに落ちようとしているとも読み取れます。
「幸せ」という単語だけを見てしまうと、まるで恋が一時は成就したかのような、ホッと一息つけるかとも思える、一見、幸せなシーンになります。
でも、どうでしょうね?
ここに至るまでに、「この恋は悲恋であり、成就すれば不幸を招く」と暗示されており、少なくとも愛する人は(もしかしたら主人公も共に)泣き疲れているのです。
額面通り素直に「幸せに眠っている」=「眠る幸せ」を「味わっている」と読んでしまったら、物悲しいこの曲の世界観の中で、ここの部分の歌詞だけ妙に浮いちゃいますよね。
ここまでの流れで、「幸せ」は実現していないと読むのが妥当で、主人公は「眠る幸せ」を「祈っている」と受け取るべきでしょう。
さて、どう思います?
だいぶ不穏な空気が漂ってきましたよね。
「眠る」は、古今東西、おそらく最も多く「死」の比喩に使われてきた、死を直接意味しない言葉の中で最も不吉な言葉のひとつです。
おおぉっ、濃密に死の香りが漂い始めましたよね。
分かりますよね?
分かってないとヤバイですよ?
この単語の効果を理解した上で、明確に、意識して、敢えて、「眠る」という言葉を使ったのだとしたら、その若さにしてその技巧、なんという凄まじいセンス。歴戦を経た戦神みたいで恐ろしいです。「無意識に、ココにピッタリ嵌る言葉 をチョイスした」であって欲しいです。例え無意識でも、ココに「眠る」が来るのは超越的な才能で、やっぱり恐ろしいです。
この言葉ひとつで、ウルトラマリンは一気に、ある種の「心中歌」になるんですよ。
もちろん、現代の歌なので、さすがに碑文に遺る古代の歌や、ロミオとジュリエット等々のような、悲恋の末そのものずばりの「心中歌」ではないと分かっています。
ですが、「眠る」という言葉のお陰で「心中」という「結ばれる為の死」が想起され、ここにおいて、遂に……
「愛(エロス)」と「死(タナトス)」が揃うのです──!!
人の心を惹きつける2大要素。
広告には絶対入れろと言われるモチーフ、「お約束」の、王の中の王。
創作でも、多くの人に触れて欲しいのであればこの2つの要素は外せないと言われております。
おそろらく、才能で、無意識に揃えちゃったんでしょうね。
凄いですわ……
そんなこんなで、私の読み解き(考察)は終わりです。
長々とお付き合いいただき、ありがとうございました(*´ω`*)
Fin
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