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座敷童の居場所 ~ショートショート~

 おばあちゃんの家は、ぼくの家から車で3時間くらいかかる田舎にある。周りは田んぼと畑ばっかりだし、夜はずっと蛙と虫の声がうるさい。近くに公園なんてないし、ゲームセンターなんてものもない。ないない尽くしだけど、ぼくはおばあちゃんの家が好きだった。
 従兄弟たちと鬼ごっこやかくれんぼができるほど広い家は、どこの部屋でも畳と木の匂いがする。ぼくの家では絶対しない匂いだ。


 その中のひとつの部屋で、ぼくはその子にであった。


 従兄弟たちが来るのは明日で、ぼくはひとり家を探検していた。刀が飾ってある部屋、古い本ばかりの部屋、お客さんが寝る部屋、がらんとして箪笥も空っぽの部屋……。


 家の裏の庭が見える部屋に、その子はいた。


 そこは何もない部屋だったから、いつもだったらすぐに通りすぎる。けどその日はなんとなく、庭から入る風が気持ちよくてぼくは畳にごろんと寝ころんだ。一瞬目を閉じて、開いたとき、その子は床の間に座っていた。

「うわ……っ!」

 びっくりした。その子はすん、と静かに座っていて、いつからそこにいたのぼくにはわからなかった。
 真っ黒のつやつやした、肩まである髪の毛。まん丸い目も真っ黒で、肌はとっても白かった。服は洋服じゃなくて、七五三で従兄弟の女の子が着てたような着物。かわいい子だなと思った。

「だれ? いつからいるの?」

 女の子はきょとんとしてぼくを見つめた。睫毛がすごく長い。

「うち? うちはずっとここにおるよ」

 あ、関西弁だ、と思った。おばあちゃんと同じ。

「お兄ちゃん、一緒に遊ばへん?」

 こてんと首をかしげた女の子は、やっぱりかわいかった。だからぼくはかるーい気持ちで、いいよと答えた。にっこり笑った女の子は、目が三日月みたいになった。

 不思議なんだけど、何をして遊んだかぼくはぜんぜん覚えていない。すごく笑ったことは覚えてるんだけど、鬼ごっこでもかくれんぼでもないし、従兄弟たちとする遊びのどれでもない遊びをしたっていうことは覚えているのに、何をしたか覚えてない。

 気づいたら夕方になっていて、お母さんがぼくを探しにきた。

「こら! あんたこんなとこにいたの。もう晩ごはんの時間だから、早く戻っておいで」

「うん!」

 お腹がすいたぼくはすぐにお母さんについて行った。女の子がばいばいと手を振ったから、ぼくも手を振り返した。

 ぼくがあの子に会ったのはその日だけ。次の日には従兄弟たちといつもどおり遊んだ。裏庭の見える部屋には行かなかったなあ。


 この絵日記に女の子の顔をかこうと思ったんだけど、だんだんどんな顔だったかわからなくなってきちゃった。
 すっごくすっごくかわいい子だったんだけどな。ふわふわした関西弁も、すっごくかわいかったんだけどな。

 
 次におばあちゃんの家に行くときは、まっさきに裏庭に行こうっと。
 

 あ、お母さんが呼んでる。今日の晩ごはんはお赤飯なんだって。
 なにかいいことあったのかな。


 じゃあね。


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なんだか久しぶりの気がするショートショート。
 

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