デザインの仕組み:NYの美大講師に教わる創造力の伸ばし方
LINE Fukuokaデザインチームです。
この記事は、ニューヨークでデザイナーとして活動しながら、現地の美大で教鞭をとられている遠藤 大輔さんをお招きして開催した「デザインの仕組み・デザイン力を伸ばす基礎」講座でお話しいただいた内容をベースとしています。デザインを学ぶ人、デザインを教える人、デザインに興味のあるすべての人に参考になる内容となっていますので、ぜひ最後まで読んでいただけたらと思います🙌
背景・経緯
チームの現状課題
現在、私たちのチームは、事業からの依頼に対応する土台を作り上げるフェーズから、UXを重視し、サービスへの貢献を目指すフェーズへと移行しています。この過程で、特定のスキルアップ施策にはリソースを投入することができましたが、チーム全体のレベルの底上げにはまだ十分に取り組めていません。特に、LINEらしさやLINEならではの表現に苦労するメンバーには、実務を通じて感覚を掴んでもらうという方法で乗り切っている現実があります。
なぜ、この講座を実施しようとしたのか?
全体的なスキルアップにかけるリソースの捻出が難しかったので、外部の専門家の力を借りたかったというのが正直なところです。また、チーム内にはスキルを急速に伸ばすメンバーもいましたが、その成長の仕組みを体系化することまでできなかったという課題もありました。ストアカさんで「デザインの仕組み・デザイン力を伸ばす基礎」を開催されていたのは知っていましたし、これぞまさに現在のチームにマッチしたテーマだと感じたため、X(旧 Twitter)にて個別に講座をしてもらえないか遠藤さんにお声がけしたところ、快く協力していただけることになり、今回の会が実現しました。
講座内容
創造の型
「どうやったら創造力を伸ばせるのか?」これは、すべてのデザイナーが知りたいと思う永遠のテーマですよね。
遠藤さんの講座では、この問に対する答えを探るため、米国のデザイン教育の第一人者であるエレン・ラプトンの見解の紹介から始まります。
ラプトンの言葉を簡潔にまとめると、創造力を伸ばすために重要なのは「才能」ではなく「プロセス」であるということです。なぜなら、創造のプロセスには「予測可能な道筋」、つまり再現可能な型が存在するからです。もちろん、「才能」が不要というわけではありません。「才能」は誰しもが持っているものですが、それを最大限に活かすための鍵が、「創造の型」ということです。
遠藤さんの講座では、この視点をデザイン学習の基本と位置づけ、創造の型に基づいたプロセスがどのように創造力を拡大するのかを、理論と実践を通じて分かりやすく、楽しみながら学べるように構成されています。 本記事では、遠藤さんの講座で学んだ内容の一部を紹介しつつ、読者の皆さんにも実践を通じて、創造のパターンが創造力を拡大する体験をしていただきたいと思います。
ゲームを通して「型」を体験
"創造の型に基づいたプロセスが、創造力を拡張する"
聞こえはいいですが、これが本当なのか効果を感じるには、実践してみることが一番です。実際に講座の中で「型」の効果を実感するために、体験したゲームをやってみたいと思います。
いくつまで数えられたでしょうか?(平均は10前後だそうです)
数えていて、この中にパターンがあることに気付いたでしょうか?
実は、この数字はランダムに配置されているように見えて、画像のように十字に区切られた枠に、Zの順番で数字が分布されています。1は1の枠、2は2の枠、3は3の枠、4は4の枠にあり、5は1の枠、6は2の枠にあるという具合です。
では、このパターンを知った上で数字をシャッフルして、もう一度同じことをやってみます。※1の位置は最初の画像と同じです。
いかがでしたか?おそらく多くの方がパフォーマンスの向上を感じていると思います。この型で向上したのは、見つける力、つまり観察力です。このように、どんな能力でも型によって向上することを体験していきます。そして型を意図的に反復練習することで、無意識レベルで使えるようになり、いくつかの「型」を同時に使えるようになることで、能力が伸びていくことを講座で学びます。
創造の基本的な型「分析と統合」
型の効果を体験した後は、創造のプロセスにみられる型である「分析と統合」を学びました。
「分析と統合」は、創造的なプロセスを「分析」と「統合」の2つのフェーズに分けることで、創造力を倍増させ、可能性を広げるというものです。創造的な活動は、ほとんど例外なくこの「分析と統合」のサイクルで構成されています。
「分析」は対象の構成要素を「分ける」ことで、各要素の確認と観察を行い、要素同士の関係性を理解することで、対象への理解を深めます。つまり、「分ける」ことが「分かる」につながります。言い換えると、分析は選択肢を増やして可能性を広げる発散のフェーズです。
一方、「統合」は分析を通じて理解した要素を再構築したり、再配置したり、新しい要素を組み込んだりすることで、広がった可能性を絞り込み、新たな価値や意味を生み出す収束のフェーズです。
「分析と統合」のプロセスには様々なメソッドやツールが存在しますが、今回はその中でもキーコンセプトとなる「アンラーニング」と「リフレーミング」を紹介していただきました。このふたつについて、実際に遠藤さんから解説していただいた内容の一部を抜粋して紹介します。
Unlearning-アンラーニング-
アンラーニングとは、「先入観や偏見を取り払い、ものごとの本質を学び直すこと」です。これは、一度は理解したと思ったことであっても「何も分かっていなかった」と思えるほど深く学び直すことを意味しています。「知らないことを知る」とも言えます。 どんな創作活動においても、アンラーニングが欠けていると新たな価値や意味の創出が難しくなります。デザインにおけるアンラーニングは、言葉を用いた領域だけでなく、形を用いた非言語の領域でも適用可能です。非言語の領域のアンラーニングについて説明するために、実際に講座で教えていただいた例を紹介します。
デザイナーが、コップのデザインを依頼されたとします。
おそらくデザイナーの頭の中にはこのようなコップの形が思い浮かびます。
しかし、コップをデザインし始めた途端にこういったことが起こります。
そして、コップとお皿、コップと花瓶の違いがぼんやりしてきて、コップって何だろう?とちょっと混乱します。しかし、コップについての理解が不確かになった時、コップへの理解は実は深まっているのです。この「ちょっと混乱するけど、そのおかげでより深く理解する」という状態こそが、形を用いた非言語の領域のアンラーニングにおいて大切な部分と言えます。
Reframing-リフレーミング-
リフレーミングとは、「物事の捉え方を変え、別の枠組みで捉え直すこと」を意味しています。こちらも理解するには、体験してみるのが効果的ですので、実際に講座の中で遠藤さんが行ったクイズを通して解説します。
クイズ:並んだ9個の点を、4本の連続する直線で(紙からペンを離さずに、一筆書きで)つないでください。
※ヒント:Think outside the box.(箱の外に出て考えなさい)
いかがでしたか?一つだけ点が残ってしまいませんか? 9つの点で形成される正方形の枠に囚われてしまうと、なかなか解決策が見つかりません。しかし、その枠に縛られる必要はないことに気づくと、9つの点を4本の直線で連続してつなげることが可能になります。
このクイズは、創造的な解決策を思いつくには、先入観を破る必要があることを教えてくれます。
つまり、先入観にいかに気付けるかが、新しいアイデアを生み出すための大切な鍵となります。先入観を捨てることで、もっと新しいアイデアが生まれ、それが問題を解決するための新しい方法につながる。これがリフレーミングの大切な部分です。
ちなみに、私は答えを教えてもらうまで全くわからなかったので、答えを聞いて自分の無意識の先入観に驚くと同時に、頭の硬さに絶望しました…w
受講後の感想
この記事で紹介したのは、講座のほんの一部ですが、創造のパターンに基づいたプロセスが、創造力を拡大することを体験していただけたでしょうか。実際に講座を受けた参加者からは、「ハッとした」や「モヤが晴れた」といった反応が多く寄せられました。これは、講座を通じて自分が無意識に持っていたバイアスを認識したり、完全に理解できていなかった型の効果を実際に体験した結果であり、それぞれがこれまで学んだことや直感的に行っていたこととの、再確認の機会にもなったと考えられます。
受講したメンバーからの声
最後に
今回紹介させていただいた内容は、遠藤さんの書籍「デザイン、学びのしくみ」でも紹介されています。
遠藤さんが美大で実践するデザイン教育について詳細に紹介したこの本では、デザインの学びを、カリキュラム、学びの場、そして教師と学生の関係という要素に分けて考え、「分析と統合」の視点からそれらの要素をデザインのコースにどう統合するかを紹介しています。
遠藤さんのデザイン教育の高みを目指す過程での試行錯誤が、一つの参考資料として凝縮された一冊です。デザインに関わるすべての人にとって役立つ本だと思いますので、この記事を通して興味を持たれた方はぜひ手に取ってみてください!