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万年筆のペン先はお好きですか? 〜各メーカー・ブランドのゴールド製ペン先を眺めてニヤニヤしようぜ!〜


はじめに

 万年筆は持ってりゃ嬉しいだけのコレクションじゃあない。有用な文具なんですよ? 文具は使わなきゃ。高い金かけて買ったのは使う為でしょ?

 お世話になっております、あなたの四葉静流です。

 ガンダムSEED FREEDOMがもうすぐ公開ですね。それはさておき、新年一発目の記事は、万年筆のペン先について語っていこうと思います。先月に投稿したノートについての記事でも触れましたが、万年筆の特性や書き味にはバリエーションがあり、その大きな理由となってるのがペン先です。

 実を言いますと私は、「そのメーカーの特色や思惑をフルで感じたい」という考えから、これまでに購入した万年筆は自社製ペン先を搭載しているメーカー、あるいはペン先メーカーと共同開発したペン先を搭載したブランドを多く選んできました。

 万年筆がシャーペンやボールペンと一線を画する特徴の一つが、後者二つと比べて巨大であるがゆえに装飾的な刻印を施せるのがペン先でもありますしね。

 ボールペンが1本100円前後で買える時代に、わざわざ高いお金を出して各メーカー・ブランドのフラグシップモデルや上位モデルを手に入れたんですよ? だったら、各社が自身の顔として世に送り出した万年筆のペン先を眺めてニヤニヤしたっていいでしょう? それが、大人の特権だ。あ、今回はガンダムネタ多めでいくみたいだな私。

ちなみに、私が一番好きなガンダム作品は「ポケットの中の戦争」です。「地球の連邦軍とスペースコロニー国家のジオン軍が、『モビルスーツ』と呼ばれるロボットを使って戦争をして、最終的に連邦が勝った」程度の知識で十分に楽しめるのでマジでオススメです。『ある日、少年は“戦争”と出会った』。


フラグシップや限定品をメインに巡る、各メーカー・ブランドのゴールド製ペン先

 「善は急げ 月は東に 日は西に」と古事記に記載がありますし、早速やっておきましょう!

  ここからは私の労力軽減を主な理由として、「ゴールド製ペン先万年筆」を「金ペン」、「スチール(合金)製万年筆」を「鉄ペン」、「ペン先」を「ニブ」と書いていきます。また、「14金」や「18金」などのカラット数は「K」表記です。つまり、例えば「18Kニブ」は「18金のゴールド製ペン先」という意味です。あ、一応明言しておきますが、古事記云々は私がでっち上げた完全な捏造です。悲しいけどこれデタラメなのよね!

アウロラ・18Kニブ

 まず最初に、イタリア筆記具メーカーの雄である「アウロラ」18Kニブを見ていきましょう。

 見た目に関して、アウロラの金ニブは個人的に好みですね。丸みが強いニブの形状が可愛らしく、装飾として施された刻印がスリット(ペン先中央のハート穴から先端のペンポイントから伸びている切れ目)にかかっていない事にマニュファクチュールとしてのコダワリを感じます。まあ、お値段に関しては全く可愛げがないんだけどなっ。

 アウロラの金ニブは14K製と18K製があり、定番品には前者、限定品や宝飾系モデルには後者が採用されています。写真の18Kニブは数年前に発売された限定品である、「オチェアーノ・パシフィコ」のものです。

 一般的に金を含んだ合金は、その含有量が高いほど柔らかくなります。しかし、万年筆のペン先においては、その決め手となるのが厚みや形状によるところが大きな割合を占めています。アウロラの金ニブでは14Kでも18Kでも大きな違いはなく、他社と比べてペン先のしなり具合が控えめな「ガチニブ系」に分類されています。例えるならば、「モビルスーツの性能の違いが、戦力の決定的差ではないという事を教えてやる」ですね。

指導者ジオン・ダイクンの遺児として生涯にわたって世相と政治と運命に翻弄され、それでも抗い続けた男、シャア・アズナブル。

 書き味としては前述の通り、「これ本当に金が使われてんの?」と疑いたくなるほど硬めです。マジで数百円の鉄ペンよりも硬い。加えて、アウロラ製万年筆のインクフロー(ペン先から流れ出るインク量)が他社製と比べて比較的多くないので、総じてカリカリとした筆記感になりがちです。

 しかし、私は流れるようにヌルヌルとした滑らかな書き味が好みです。おっと、あなたはもう気づいたようですね。そうです、このニブは日本ではあまり見かけない、「アウロラの太字幅(B)」です。

放熱板のような櫛溝の上にある「B」の文字が字幅表記です。アウロラ製万年筆は、ペン芯にそれが記されています。ちなみに、アウロラのペン芯素材は万年筆インクと相性がいいエボナイト(硬質ゴムの一種)です。

 日本では漢字という複雑な文字を多用している為、万年筆の字幅において、どちらかというと細字帯が好まれます。特に、先ほど述べた通りアウロラはフローが控えめなので、日本で需要が高いのは細字帯で、太字帯は輸入の時点であまり量が多くないそうです。

 そうです、それで希少価値が付加されるわけではありませんが、このアウロラの18KでBニブは日本において結構レアな存在です。このBニブですと太字幅によるフローの多さで、アウロラ製万年筆のレビューで散見される「カリカリ感」があまり見受けられません。それにプラスして、使用時にペン先故障を心配する程度が他社製よりも比較的低いガチニブは意外と実用的です。ユーザーの気苦労を軽減するのは、文具としての本懐と言えるでしょう。

 あなたが「アウロラの万年筆に興味あるけど、カリカリした書き味はなあ……」と考えた時、是非ともこのBニブの存在を思い出してくださいまし。


セーラー・プロフェッショナルギアスリムの14Kニブ

 続いて登場するのは、日本三大万年筆メーカーの一角である「セーラー」の、エントリー帯金ペンである「プロフェッショナルギアスリム」の14Kニブです。セーラーといえば、「21Kペン先」や「長刀研ぎ」などで有名なメーカーですが、このニブはエントリー帯に採用されるものとして、14K製かつ一般的な研ぎ方のペンポイントを持ちます。ペン先の大きさも同社内で比較的小型です。

 個人的に、このセーラーの14Kペン先はかなり好みの見た目です。かつては「万年筆そのものの代名詞」として名高いモンブランのマイスターシュテュック149を所持していた事もありますが、私個人としてはあれのような超大型ニブよりも、コロンと小さく可愛らしいニブの方が好きですね。この大きさでも装飾性の高い刻印の情報量のおかげで安っぽさが薄いですね。

ペン先自体は定番品と同じなので詳しい説明は割愛しますが、ボディーカラーはどちらも限定品です。加えて、この刻印は現行モデルより一つ前の、旧モデルのものです。

 ちなみに、セーラーの金ニブにはメッキ処理が施されており、シルバーカラーならばロジウムメッキ、ゴールドカラーならば24Kメッキです。そういう意味でも、エントリーモデルでも手を抜かないセーラーのコダワリを感じますね。まあ、プロギアスリムの値段でも1本100円のボールペンと比べたら、ディープストライカーみたいなもんですけどね。

敵陣中枢への一撃離脱を可能とする高性能を突き詰めた結果、開発・建造費が天文学的な数字となり、ペーパープランのみで終わったガンダム。

 書き味としては、エントリーモデル金ペンとして国内他社の同価格帯と比べて良い意味で中庸と存じます。個人的な感じ方としては、「ペン先は比較的硬めでインクフローが豊かなパイロット」と「ペン先は比較的柔らかめでインクフローが控えめのプラチナ」との、ちょうど中間点的な位置に属しているかと。

左から、「セーラー・プロフェッショナルギアスリム」、「プラチナ・#3776センチュリー」、「パイロット・カスタム74」。

 そういう意味で、プロギアスリムは「万年筆に興味があるけど、最初からある程度質のいいペンが欲しい」や「鉄ペンに慣れてきたからステップアップしたい」という需要にマッチした、どちらかと言えばビギナー向きのペンですね。価格としても金ペンの中では比較的安価ですし、プロギアスリムは限定品のベースとして選ばれる事が多いのでカラバリも豊富ですしね。しかし、ビギナー向きと言っても、このクセの少なさはベテランにとっても重宝するでしょう。例えば、単純に「『手持ちの主力』でカバーしきれない隙間を埋める為」や「インク遊びを堪能する為のn本目の金ペン」としてもうってつけです。

 「机の上」という戦場において活躍するのは、ガンダムのようなフラグシップや上位モデルだけではありません。ジムやボールのような比較的安価な代物でも、戦況を左右する大きな一手となり得るのです。モビルスーツを先に実戦投入して(コロニー落としも含めて)一年戦争序盤は優位だったジオンは、最終的には連邦に物量差で押し潰されたようなもんだしな。


ピナイダー・14Kハイパーフレックスニブ

 ここからを少し趣向を変えて、特殊な形状を与えられたペン先を見ていきましょう。これはイタリアの文具ブランドである「ピナイダー」の、高級定番万年筆か限定品に採用されている「ハイパーフレックスニブ」です。

 ニブの左右に「釣り針の返し」のような独特な形状を持つ理由は、軟調ペン先として剛性の低下を目的としたものです。前述した通り、ペン先の硬さ・柔らかさはその形状によるところが大きな割合を占めています。つまり、切れ込みが入れられたパイプ管が曲げやすいのと同様に、この形状によってペン先に柔らかさをもたらしています。

 と言っても、無理な力を込めたり不適切な使い方をしなければ故障する事はありません。それは軟調ではない普通のペン先と同じです。また、こういったニブの左右に加工を施した軟調ペンのアイディアはピナイダー独自のものではなく、パイロットの「フォルカンニブ」といった他社のニブにも散見できます。

「パイロット・カスタム823(フォルカンニブ)」との外見比較。ラグジュアリー感に溢れるきめ細やかな刻印を持つハイパーフレックスニブと、余計な剛性を与えない為に刻印は最低限のフォルカンニブ。

 ピナイダーの誕生は1774年と古く、かのフランス皇帝ナポレオンもピナイダーで名刺作りを行なったほどの由緒あるブランドです。2016年から新資本のもとで再スタートし、その一環で開発されたのがこのハイパーフレックスニブです。製造自体はドイツのペン先メーカーであるボック社が担当していますが、開発に関してはピナイダー・ボック社共同で行われたとの事です。つまり、他社に散見される自社製ペン先と同じく、ハイパーフレックスニブもまたピナイダーの万年筆にしか採用されていません。

 上記の通り、ハイパーフレックスニブはピナイダーの高級定番品かそれ以上の価格である限定モデルにのみ与えられます。現在のピナイダーにおける代名詞とも表現できるハイパーフレックスニブには、高級感に溢れた装飾性が高い刻印が施されています。一般的なニブとは逸脱した軟調としての形状と相まって、とてもエレガントです。

 書き味としては、軟調ニブとして開発・製造された通り、筆記時には一般的なペン先よりもスリットが開き、フワフワとした弾力がある軽快さが魅力です。この書き心地は単純にノートや手帳に書き込む時にも重宝しますし、軟調ゆえに筆致へ強弱をつけやすいのでサインなどにも適しています。

ピナイダーはキャップリングにパングラム(その中に全てのアルファベットを含む一文。筆記練習などのお題としてよく用いられる)を記すほど、「万年筆の筆致」に矜持を抱いています。

 ちょっと想像してみてください。あなたが胸ポケットから手に取った万年筆は、イタリアの歴史あるブランドであるピナイダーの万年筆。そのキャップを外し、求められた空欄へ颯爽とペン先を走らせ、あなた自身のサインを描く。とてもエレガントではありませんか? エレガントだよな? やっぱエレガントは重要だよな!!

みんな大好き、ガンダムWのトレーズ閣下。

 おーい、現実に戻ってこい。次に行くぞ。あ、ちなみに、私の万年筆は絶対貸さないから、その妄想の続きは身銭を切ってやってくれ。


モンブラン・マイスターシュテュックグレイシャードゥエの18Kニブ

 ……ん……長いな……「サイコ・ザク」とする!!

正式名称は「リユース・サイコ・デバイス装備高機動型ザク」。そりゃ略したくもなる。

 この長い名称には理由があります。あ、サイコザクの方じゃないよ。

 万年筆ブランドのトップとして君臨するモンブランは、定期的に限定品を発売しています。特に、そのベースにはフラグシップモデルである「マイスターシュテッュク」が選ばれる事が多く、限定品には往々にしてそのモデル独自の刻印が与えられます。

「4810」は、ヨーロッパ最高峰であるモンブラン山の標高。

 画像のものは数年前に発売された、モンブラン山から流れるメール・ド・グラース氷河をモチーフとした「グレイシャー」シリーズに採用されたペン先です。グレイシャーにおけるニブの刻印は、グラース氷河をドラゴンに見立てた絵画作品からの引用です。

引用元は画家であり登山家であった、ヘンリー・ジョージ・ウィリンク(1851〜1938)の作品。

 グレイシャーシリーズの万年筆において、マイスターシュテュックの中で中型モデルある「ル・グラン」と、それの一つ下である「クラシック」がそのベースに選ばれました。画像はクラシックがベースの「グレイシャー・ドゥエ」のものです。ル・グランがベースのものと比べて、ボディーもニブも小振りです。

 プロギアスリムの時にも書きましたが、私はコロンと可愛い小型ニブが好みです。あちらはエントリー帯の金ニブでしたが、こちらには万年筆の王たるマイスターシュテュックの証である「4810」の刻印が入れられています。

 こんな小さくて可愛いのに、「ギャップ萌え」の要素があるんですよ。それはまるで、「引っ込み思案な田舎者の転校生が、実は高性能モビルスーツの凄腕パイロット」みたいじゃないですか? なんだか無理やりこじつけた感が拭えないけど、水星の魔女は名作だからとりあえずプロローグと第1話だけでもいいので騙されたと思って見てくれ。

ガールミーツガールから始まる、学園ストーリーのガンダム。

 この記事を書くにあたって気づいたのですが、グレイシャーシリーズのニブには14Kのものと18Kのものが存在しています。元々、文具専門誌である「趣味の文具箱」の誌上で紹介されていた時にペン先の素材について触れていなかったので不思議に思っていましたが、今回改めて調べ直してその法則性が判明しました。

 まず、14Kのニブは定番品のマイスターシュテュックと比べてボディーカラーと一部パーツ以外はほとんど変わりない「クラシック・グレイシャー」と「ル・グラン・グレイシャー」に採用されました。そして、18Kニブはきめ細やかな加工が施された金属製キャップが特徴でありクラシックがベースの「グレイシャー・ドゥエ」と、ボディー全体が金属製で同じく装飾性が高い加工を持つル・グランがベースの「グレイシャー・ソリテール」に与えられました。

 つまり、同じグレイシャーシリーズの万年筆でも、ボディーの違いによってグレードが設けられたという事ですね。画像のニブは18Kであり、前述の通りグレイシャー・ドゥエのものです。

あくまでペン先についての記事なので軽く触れるだけにしておきますが、グレイシャー・ドゥエのキャップは宝飾品と見紛うほどの精巧で美麗な、氷の結晶を模した加工を与えられました。

 書き味に関して、万年筆ファンからは現行モンブランのニブもアウロラのそれと同じく、ペン先のしなり具合が控えめなガチニブとしてカテゴライズされています。それでも、ガチニブ筆頭のアウロラに比べたら柔らかめですけど。個人的には、特に大きな不満はありませんが、劇的に感動する書き心地でもありません。

 しかし、それは逆に表現するならば「万人受けしやすい」と言えるでしょう。モンブランの万年筆は文具ファンのみならず、ビジネスパーソンを主とした多くの人間から人気を博しています。アウロラのニブでも書きましたが、ガチニブは「ある程度の筆圧くらいでは故障しないペン先」です。それは、「モンブランの万年筆で、初めて万年筆を握る者」にとって頼もしく思えるでしょう。

 つまりは、「誰をターゲットとしている製品なのか」という話です。例えば、日本の大手文具メーカーであるパイロットの、フラグシップ万年筆シリーズ「カスタム」の最上位モデルである「カスタムURUSHI」は、独特の書き心地をもたらす比較的柔らかい超特大ニブが搭載されています。(あくまで私の憶測ですが、)カスタムURUSHIが「文具、延いては万年筆をこよなく愛する者」に向けた製品であり、マイスターシュテュックが「文具ファンではない一般ユーザーも含めた最大公約数」を念頭に置いているだけです。そこに優劣も上下もありません。

 前述の通り比較的柔らかいニブを持つカスタムURUSHIや、大々的に軟調ニブとして売り出している「エラボー」や「フォルカンニブ」の存在があるのであまり話題に上がりませんが、パイロット製の万年筆でもカスタムの下位モデルなどには意外と硬めのニブが存在します。
 アナハイムエレクトロニクス社が工場で分かれて連邦・ネオジオン双方のモビルスーツ開発・製造を請け負っていたように、「パイロットだから、カスタムだから柔らかい」というわけではありません。

 少し長くなってしまったので、このへんで結論を述べますね。「モンブランの万年筆には、単純なネームバリューだけではない強みや特徴がある」という事です。特に先ほど述べた通り、モンブランの限定品ではニブにその限定品ならではの刻印が施されます。他社ではニブ自体はフラグシップのものをポン付け、あるいはレーザー刻印で済ませてしまうって意外と多いですよ?

 お高い万年筆ですが、その値段とブランド名に恥じぬ確かなものを持ち、手放す際には決して捨て値にはならない。それがモンブランの万年筆です。


結びに、「愛・文具」

 前回・前々回ほどではありませんが、今回もそれなりの文量になってしまいました。最後までお読み頂き、本当にありがとうございます。そして、本当にお疲れ様です。まあ、戦場で繰り広げられる人間ドラマモノであるガンダムが大好きなあなたなら、これくらいの情報量なんて楽勝だったでしょ?

 今回紹介した金ニブは、モビルスーツで例えるとガンダムのようなフラグシップモデルや限定品が多めでしたが、万年筆全体ならば数百円台の鉄ペンから販売されています。

 エースとして名高い歴戦のモビルスーツパイロットは、必ずしもガンダムに乗っているわけではありません。中には、性能が劣るザクでガンダムを打ち倒した者も存在します。

 今回の記事があなたにとって、愛機とするモビルスーツを選ぶ際のような万年筆購入における参考になれば幸いです。

 今後も、四葉静流をどうかご贔屓に。