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【究極】リサ・ランドールが「重力が超弱い理由」を解説する、超刺激的なひも理論の仮説:『ワープする宇宙』

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「ワープする余剰次元」を理解する

まずは、本書がどのような構成になっているのかから触れていこう。

本書は、科学者であるリサ・ランドールが1999年に提唱した「ワープする余剰次元」という仮説について、自ら説明する本だ。仮説そのものが書かれているのは、全6章のうち1章のみ。第1章から第4章で事前知識の説明をし、第5章が本題、そして第6章がまとめの章という形になっている。

そして本書は、もちろん本題の第5章も面白いのだが、第1章から第4章も見事なのである。

事前知識として、一般相対性理論・量子力学・ひも理論など、物理学における非常に大きな発見とその流れについて概説される。ある程度これらの知識がなければ「ワープする余剰次元」を理解できないのだが、本書を頭から読めば、本題である第5章を”一応”理解できるようにはなっている。

”一応”と書いたのは、事前知識として語られる部分が、非常に「難しい」からだ。

しかしこの「難しさ」は、リサ・ランドールに責任はない。リサ・ランドールの説明が下手だから難しく感じられる、ということではないのである。むしろ、リサ・ランドールはこれほどわかり易く説明できるのか、と感じるぐらいだ。

一般向けの科学書では、「最新の科学理論は難しいから、喩えや簡略化などによって、簡易的に説明する」という方法を取らざるを得ない。ちゃんと理解しようと思ったら、やっぱりかなり難しいのだ。しかしリサ・ランドールは、可能な限り「簡易的な説明」を避け、難しい概念を難しいものとしてどう伝えるかに苦心していると感じられる。

そういう意味で本書は、「リサ・ランドールの仮説を知る」だけではなく、「一般相対性理論・量子力学・ひも理論などについて本格的に学ぶ入り口」としても非常に有効な一冊だと思っている。

一般相対性理論と量子力学の矛盾をひも理論が解消する?

この記事では、第1章から第4章の事前知識の部分に関してはほとんど触れない。しかし、まったく触れずに説明するのも難しいので、まずは、「ひも理論」と呼ばれる仮説がどのような立ち位置にいるのかを理解しよう。

20世紀物理学の至宝と呼ばれているのが、「一般相対性理論」と「量子力学」だ。非常に大雑把に説明すると、「一般相対性理論」は「天体などのメチャクチャ大きなものに適用できる理論」であり、一方の「量子力学」は「原子などのメチャクチャ小さなものに適用できる理論」である。

「一般相対性理論」と「量子力学」は、それぞれは非常に完成された理論だ。天体に一般相対性理論を適用して問題が起こることはないし、原子に量子力学を適用して問題が起こることもない。一般相対性理論はGPSなどに、量子力学は電子機器などに使われており、実用的な意味でも不可欠な理論と言える。

しかしこの2つの理論には、大きな問題があった。それは、「一般相対性理論と量子力学を同時に適用すると矛盾が生じる」というものだ。それぞれは完璧な理論なのに、この2つを同時に適用すると上手くいかないのである。

ちなみにこれは余談。アインシュタインが生み出した「相対性理論」には「特殊」と「一般」が存在する。そして、「特殊相対性理論」と「量子力学」については、ディラックという天才科学者が、同時に適用しても大丈夫な方程式を作り出し、科学界をザワつかせた。しかし、「一般相対性理論」と「量子力学」を融合することには、まだ誰も成功していないというわけだ。

ここで「ひも理論」と呼ばれる仮説が登場する。「理論」と名前がついているが、まだ実験・観測によってで正しいと検証されているものではない。本来的には「ひも仮説」とでも呼ぶべきだろうが、一般的には「ひも理論」と呼ばれている。

さらに再び余談だが、この「ひも理論」は「弦理論」とも呼ばれている。これは、呼び方が違うだけで同じものだと思ってもらっていい。また、「超ひも理論」「超弦理論」という名称も存在するのだが、これについては、「ひも理論」の発展版が「超ひも理論」だと思ってもらえればいいだろう。ただし「超」は「前の理論を超えている」という意味ではなく、「超対称性」の「超」から取られている。

「ひも理論」は、一般相対性理論や量子力学とはまったく関係ない分野から発展したものだが、やがて、「一般相対性理論と量子力学を融合させられる唯一の理論かもしれない」と期待されるようになる。その辺りの流れは是非本書で読んでほしいが、「ひも理論」は、「一時期衰退しながらも華麗な復活を遂げている」「しかし、実験での検証が不可能と考えられており、科学ではないという批判もある」など、様々な議論を巻き起こす存在だ。

リサ・ランドールは素粒子物理学と呼ばれる分野の研究もしており、その中に「ひも理論」も含まれている。彼女が提唱した「ワープする余剰次元」も、「ひも理論」の考え方から生まれたものだ。そういうわけで本書では、事前知識として「一般相対性理論」「量子力学」「ひも理論」が説明されることになる。

「重力」の重要難問「階層性問題」とは?

それらの事前知識を学んでいく中で、「重力」に関する非常に重大な問題が解説される。それが「階層性問題」だ。そして、この「階層性問題」を解消するためのモデルとして「ワープする余剰次元」を提唱した、という流れになっていく。

そこで継ぎはこの「階層性問題」について触れていこう。

まず、宇宙に存在する4つの力について説明する。宇宙には「重力」「電磁気力」「弱い力」「強い力」という4つの力が存在する(というか、この4つしか存在しない)とされている。「弱い力」「強い力」というのは変な名前だと感じるだろうが、どちらも正式名称である。

そして、現在の科学の「希望」として、「宇宙が始まった当初はこの4つの力が1つの力として存在しており、時間経過と共に徐々に分裂し、4つになったのだ」と考えられている。あくまでもこれは仮説であり、まだ科学者の妄想にすぎない。

この妄想を最初に提唱したのはアインシュタインであり、当時は「何を馬鹿なことを」といって非難された。しかし今では「科学における聖杯」、つまり「4つの力を統一することが科学の究極の目標」とさえ考えられている。

当初はアインシュタインの妄想にすぎなかったこの考え方は徐々に支持者を増やし、やがて「電弱理論」が生み出されるに至った。これは名前の通り「電磁気力」と「弱い力」が宇宙初期は同じ力だったことを証明した理論であり、この「電弱理論」が発表されたことで、「4つの力の統一も夢ではない」と受け取られるようになっていくのである。

しかし、4つの力の統一には、大きな大きな難問が存在する。それが「階層性問題」である。

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