緋実

鏡を見ながらバックするのが苦手で、気がつけば、もう40年もペーパードライバー。どこへ行…

緋実

鏡を見ながらバックするのが苦手で、気がつけば、もう40年もペーパードライバー。どこへ行くにも、てくてく歩き、カタコト電車に乗って・・・小さな旅を楽しんでいます。

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紫陽花忌

きみよさんが旅立った。 訃報は、きみよさんのスマホから、ショートメールで届いた。受け取ったのは、土曜日の夜だった。 文末には『代筆 ごんちゃん』と、記されてあった。「ごんちゃん」とは、きみよさんのだんなさまの呼び名だ。 スマホの文字を見ていると、ジワジワと涙が湧いてきた。家族に涙を見られたくなくて、その夜は、早めに床に就いた。 きみよさんとは、物語や小説を書く同人誌の会で知り合った。内紛のようなものに巻き込まれて、きみよさんが会を離れてからも、わたしたちのつきあいは続いて

    • 2024大相撲名古屋場所観戦記

      名古屋場所四日目。愛知県体育館に相撲を見に行った。欲しかった二人マス席は手に入らず、四人マス席に二人という贅沢。 会場に入ったのは、午後2時半ごろ。 チケットのもぎりを、むかし栃東だった親方がやっていた。わたしのチケットは、親方の太い指の間に吸い込まれ、身もだえするようにちぎられた。半券といっしょに、赤地に大入と白で抜いたポチ袋をいただいた。表に「ありがとう愛知県体育館」と、行司さんの誰かが墨書したであろう字が印刷されていた。 この体育館で場所を開催するのは、今年が最後な

      • くるくる電車旅〈ほんに昔の昔の事よ〉

        東海道刈谷駅付近に、宮城道雄の供養塔があるという。宮城道雄といえば邦楽家。「春の海」の作曲者であることは、日本人なら(おそらく)誰でも知っている。宮城道雄は、盲目だった。その人の死が列車からの転落死だったことは、内田百閒の「東海道刈谷駅」で知った。 梅雨の最中だというのに猛暑日予報の土曜日、わたしは、刈谷へ供養塔を探しにでかけた。 内田百閒『追懐の筆』(中公文庫)が旅のお供だ。この中に「東海道刈谷駅」が載っている。百閒先生にとっと宮城道雄がどれほど大切な人だったか、ひしひし

        • 美濃路〈死者と生者の混じる道〉

          6月の初めての土曜日。美濃路を歩いた。 清須宿から名古屋宿へ向かう道。 名鉄須ケ口の駅から美濃路に入る。 須ケ口とは、むかし、清須の城の城郭の入り口だったことからつけられた地名。 1560年6月12日、桶狭間合戦で、織田信長は今川義元に勝利した。 「信長公記」によれば、討ち取った今川兵の首は三千。今川義元の首は、塩漬けにして丁重に駿河に送り返したが、兵たちの首は、この地に塚を築いて供養したという。 人が行き交う街道の辻󠄀に。 名だたる武士の首は、名札をつけられ、化粧を施

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        紫陽花忌

          くるくる電車旅〈国を離れて〉

          5月5日のこどもの日、三河八橋の無量壽寺を訪ねた。 毎年5月には、カキツバタ祭りが開かれる。 三河八橋といえば、「伊勢物語」の東下りだ。 昔ある男が、東へ向かう旅の途中、カキツバタが咲いているのを見て、干飯を食べながらこんな歌を詠んだ場所。 からころも着つつなれにしつましあれば はるばる来ぬる旅をしぞ思ふ 三河八橋へは、名鉄三河線で行く。 わたしは、姉と二人で、地下鉄の駅で電車を待っていた。金山駅で名鉄に乗り換えるつもりだった。 ホームの端のベンチに座っていると、若い

          くるくる電車旅〈国を離れて〉

          くるくる電車旅〈物語の誕生〉

          名鉄小牧線間内駅のすぐ東側に、武将の銅像が立っている。 お城や古墳や天下の奇祭。 小牧線の電車には、よく乗る。 間内駅で降りたことはないが、車窓からいつも、銅像をながめていた。 その銅像の武将様が、浅井長政であることは、ネットで調べて知っていた。 ゴールデンウィークの曇天の一日、わたしは、間内の武将様に会いに行くことにした。 間内駅は、名古屋空港にほど近い。 小牧市と春日井市の境にある小さな駅だ。 西から降りれば小牧市。 東から降りれば春日井市。 東口を出ればすぐ、柵

          くるくる電車旅〈物語の誕生〉

          くるくる電車旅〈覇王のうぶ声〉

          織田信長の生誕地には諸説ある。 那古野城説。 古渡城説。 近年有力とされているのが、勝幡城説。 名鉄勝幡駅の駅前広場に、あかちゃん信長の銅像があると、津島に住む友人から聞いた。 降水確率90%の日曜日、思い立って、あかちゃん信長に会いに行った。 雨が降り出さなかったら、勝幡城址まで歩きたいとも思った。 午前10時ごろ、雨傘を持って家を出た。 天気予報アプリでは、20分後に雨が降り出します、なんていっている。 空を見上げれば、意外に明るい。 薄日すらさしている。 だい

          くるくる電車旅〈覇王のうぶ声〉

          くるくる電車旅〈将軍たちの身長〉

          開花のおくれた桜が満開になった日曜日、姉をさそって、電車を乗り継ぐ旅に出た。 行く先は、三河大樹寺。 「ついてくわ。よろしくね」 姉は、にっこり微笑んだ。 彼女は、ひとりで電車などに乗ったことのない深窓の人。 名鉄東岡崎駅から名鉄バスに乗り、大樹寺で降りた。 バス停の名前は大樹寺だが、まわりは住宅ばかり。寺院はあたりに見当たらない。 姉は、バッグから地図を取り出そうとする。 後方から、黄色のトレーナーを着た女の人が、歩いてきた。 わたしは、その人をよびとめた。 道をた

          くるくる電車旅〈将軍たちの身長〉

          美濃路〈いざ出陣〉

          「桜を見に行く」と、家人に告げて家を出た。 桜といえば、城である。 城には桜がよく似合う。 城といえば、清洲城である。 なぜ清洲城かといえば、織田信長が、桶狭間に出陣していった城だから。 名鉄新清洲駅から、五条川の堤にのぼり、川に沿って、ぶらぶらてくてく。 やがて、城の天主閣が見えてくる。 しかし、信長が居城にしていた城は、そこじゃない。 あれは、市のシンボル。 観光用に造られた歴史資料館のようなものだ。 信長が弘治元年(1555)に、陰謀をめぐらしてのっとった清洲

          美濃路〈いざ出陣〉

          美濃路〈像が歩いた道〉

          県立図書館に県内の観光案内の資料を集めたコーナーがある。そこで、なにげなく手にとった一枚の歴史民俗資料館のリーフレット。 その表紙の絵に目を奪われた。 江戸時代の役人らしき三人が、一頭の象の綱を引いている。象を連れて旅をしているらしい。 記憶にある光景だと思った。 見たわけではないが、ずいぶん前に読んだことがある。 杉本苑子の「ああ三百七十里」という小説だ。 1729年。徳川吉宗が、インドから象を輸入した。つがいで輸入したのだが、雌は船旅の間に死んでしまい、上陸したのは

          美濃路〈像が歩いた道〉

          くるくる電車旅〈槐多に惹かれて〉

          村山槐多の画を見に行った。 碧南市の藤井達吉美術館。『顕神の夢』展。 村山槐多の個展というわけではないが、槐多の画が見られるなら、一点でもかまわない。 詩も小説も書いたこの夭折の画家に、わたしは強く惹かれている。 もちろん碧南まで、大好きな電車に乗って行く。 今回は、水彩画を趣味とする夫をさそった。 電車には乗り慣れているわたし。 あなたは、安心してついていらっしゃい。 金山から名鉄名古屋本線の特急に乗り、知立で三河線に乗り換える。そこからは、各駅停車の普通電車だ。海は見

          くるくる電車旅〈槐多に惹かれて〉

          くるくる電車旅〈行きすぎて遠い道〉

          今日は、節分。近所のお寺では、元横綱が来て、豆をまいてくれるという。現役時代は大好きだった横綱だけど、今日は、そこへは行かない。そのお寺は、電車に乗らなくても、歩いて数分で行けてしまうから。わたしは、電車に乗りたいのだ。 今日行きたいのは、美和歴史民俗資料館。名古屋市西部に隣接したあま市にある。 名鉄津島線木田駅まで、地下鉄、名鉄名古屋本線と二回乗り換えた。乗車していた時間は、合わせて30分にも満たないが、この乗り換えが楽しいのだ。降りたホームに乗り継ぎの電車が止まっている

          くるくる電車旅〈行きすぎて遠い道〉

          くるくる電車旅〈ひかりの橋〉

          港から初日の出を見よう!と、思い立ったのは、年末の25日だったか26日だったか。 いままでは、自宅近くの見晴らしのよいどこかから見ていた。 東西に流れる川の橋の上からだったり、銀河鉄道の異名をもつ高架鉄道の駅からだったり。 どこに行っても、大勢の人が集まっていた。 見知らぬたくさんの人々と、はつひのよろこびを共有するのは、なぜか感動的だった。 その感動を、こんどは港で!と思ったのだ。 港へ行くには地下鉄に乗らなければならない。乗り換えも必要だ。いったい朝何時に起きればいい

          くるくる電車旅〈ひかりの橋〉

          わたしの庭<リョウちゃん椿>

          わたしの庭の椿の木。種から芽生えて、10年ぐらいになるのだろうか。木の高さは、130センチほど。 山茶花の横に種を埋めただけで、なんの手入れもしていないが、芽がでると、生長が楽しみになった。木の高さが七、八十センチになったころ、初めてひとつだけ花を咲かせた。 今年は、四つ、つぼみがついた。 この椿の種を拾った日のことを、わたしは、いまでもおぼえている。 そのころ、自閉症のあるリョウちゃんを、自宅から某授産所に送り届けるのが、社会福祉協議会に身を置くわたしの任務だった。リョ

          わたしの庭<リョウちゃん椿>

          くるくる電車旅<柳に蛙>

          小春日和に誘われて、春日井市の小野道風記念館を訪ねました。電車旅とはタイトル倒れで、利用したのは、ゆとりーとライン。高架の専用道路を市バスが走ります。乗り降りするところを、バス停ではなく駅と呼ぶのだから、電車みたいでしょ。 大曽根駅から川村駅まで。 バスは、東区から守山区へ、高架の専用レーンをひた走ります。信号はなく、見晴らしがよく、まるで王様の道みたい。便利で快適なので、利用客多し。遠くには、雪化粧した山まで見えました。 車窓の景色を楽しんでいると、ほどなく川村駅に到着

          くるくる電車旅<柳に蛙>

          ブックサンタの季節

          今日は、本屋さんに行きました。 子どもの本が、たくさん置いてあるお店。 ブックサンタのことを知ったのは、昨年の12月のことでした。 『あなたが寄付した本を、厳しい境遇にある子どもたちに、サンタさんが届けます』 そんな広告を、どこかで見たのです。 新聞か、だれかのブログか、はたまたテレビのニュース番組か。 その全てでかもしれません。 見知らぬどこかの子に、本をプレゼントできる! これだっと、わたしは思ったのです。 さっそく本屋さんに走ったわたし、大判の絵本を二冊選んで

          ブックサンタの季節