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宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節

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槙 深遠(まき しんえん)は、時の流れの異なる空間を往来しながら結界の修復を続ける【脱厄術師(だつやくじゅつし)】。主従関係にある鷹丸家の娘、維知香は、その身に災厄を宿す【宿災(…
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#和風ファンタジー

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 春・壱1

あらすじ 槙 深遠(まき しんえん)は、時の流れの異なる空間を往来しながら結界の修復を続…

Luno企画
1年前
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宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 春・壱2

 砂利を踏んでやってきたのは、漆黒のハイヤー。門の前で停車の姿勢に入ると同時、後部座席の…

Luno企画
1年前

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 春・壱3

 木枠にはめられた曇りガラスが軽快な音を奏で、それに反応した足音が、家の奥から近づいてく…

Luno企画
1年前

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 春・壱4

 声を荒げず事の成り行きを見守った正一は、首を振り、やれやれといった動きを見せる。 「着…

Luno企画
1年前

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 春・壱5

 盆を手にした割烹着姿の女が二人。同じく盆を手にした男が一人。一番に座敷に上がり、品の良…

Luno企画
1年前

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 春・壱6

 頭を垂れ、戻し、音もたてぬ身のこなしで立ち上がり、深遠は廊下へ。何か言いかけた桜子の横…

Luno企画
1年前

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 春・壱7

 二人が座敷に着くと、漆塗りの卓は賑やかな様相を見せていた。菊野は和やかな笑みを見せ、ほんのりと頬を赤らめた正一は、維知香に向かって声を上げる。 「維知香、お転婆が過ぎるんじゃないか? せっかく素敵な着物を着たというのに、それじゃあ誰が見たって、お転婆で聞き分けのない子ども、そのものじゃないか」 「ごめんなさい」 「私じゃなく、深遠さんに謝りなさい」 「私なら構いません」  深遠が言葉を挟むも、正一は右手を立ててそれを制し、言葉を繋げる。 「いいかい? お母さん達にも謝

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 夏・壱1

 深遠の鼻を突いたのは、逞しく息づく緑の香り。耳に流れ込むのは蝉の鳴き声。体全体が生ぬる…

Luno企画
1年前

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 夏・壱2

 墓前に手向ける花を求め、町へ。夏空の下、半里ほどの道のりを歩くのは全く苦ではない。体は…

Luno企画
1年前

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 夏・弐2

「君は、どんな時に恐怖を覚えるんだ?」 「なあに? 急にそんなこと」 「怖いもの知らずが抱…

Luno企画
1年前

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 夏・弐3

 深遠の胸中など知らず、維知香は、ひと仕事終えた開放感に包まれている。ごく普通に、散歩に…

Luno企画
1年前

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 夏・弐4

 灯馬の白は、洞窟の奥へ奥へと流される。苦悶に歪む灯馬の顔。その胸元には、維知香の姿。顔…

Luno企画
1年前

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 夏・弐5

 槙家の縁側。ヒグラシが夕暮れを告げている。座敷に敷かれた布団で、維知香が静かに眠ってい…

Luno企画
1年前

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 夏・弐6

 薄っすらと開いた、維知香の瞼。瞬き。続く瞬き。そして大きく目を見開く。深遠の姿を求めて顔を横に。作務衣姿を捉え、更に目を見開く。 「私、どうして……深遠、私、一体」 「一体何があったのか、と聞くつもりか?……わかっているだろう? 自分が何をしてしまったのか」  穏やかではあるが、確実な厳しさを孕んだ深遠の響き。維知香の顔に浮かんだのは、羞恥の表情。それは瞬く間に悔しさを滲ませるさまとなり、目元に押し寄せる感情を堪え始める。  深遠は、黙して見守るか、胸に飛び込む維知香