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宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節

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槙 深遠(まき しんえん)は、時の流れの異なる空間を往来しながら結界の修復を続ける【脱厄術師(だつやくじゅつし)】。主従関係にある鷹丸家の娘、維知香は、その身に災厄を宿す【宿災(…
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#ファンタジー

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 春・壱1

あらすじ 槙 深遠(まき しんえん)は、時の流れの異なる空間を往来しながら結界の修復を続…

Luno企画
1年前
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宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 春・参1

 うたた寝をいざなう春の陽気は瞬く間に去り、気づけば入梅の気配が、すぐそこまで近づいてい…

Luno企画
1年前

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 春・参2

 鷹丸家の中庭に面した縁側。そこに座る頃、空間は完全に夜の様相となっており、涼やかな夜風…

Luno企画
1年前

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 春・参3

 再開した正一の響きは、篤実さを増し、重みを含んでいる。それ感じとり、深遠は座を改めた。…

Luno企画
1年前

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 春・参4

「……上の息子達が、幼くして旅立ったのは、以前お話ししましたね。私は不謹慎ながら、貴方の…

Luno企画
1年前

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 夏・壱1

 深遠の鼻を突いたのは、逞しく息づく緑の香り。耳に流れ込むのは蝉の鳴き声。体全体が生ぬる…

Luno企画
1年前

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 夏・壱2

 墓前に手向ける花を求め、町へ。夏空の下、半里ほどの道のりを歩くのは全く苦ではない。体はもう完全に、こちら側の気配を捉えている。頭上で強さを誇る太陽も、執拗に纏わりつく熱気も、ただそこにある事象のひとつ。 (夏に汗を流し、冬に身を縮める……それが世のことわりなら、俺は全てに反していると言える)  宿災(しゅくさい)の守護 身に纏う結界はあれど 宿る災厄無し  脱厄術師は、生まれながらに結界に守られた存在。自らが持つ特性を、便利と思えば顔を持ち上げられる。不憫と思えば、こ

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 夏・壱3

 顔面を覆うほど伸びてしまった前髪と、肩を過ぎてしまった後ろ髪を、ばさりと切り落としても…

Luno企画
1年前

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 夏・壱4

 夕刻。鷹丸家の座敷。かつて正一が座っていた場所には、吾一の姿。 「今回も、ご苦労様でし…

Luno企画
1年前

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 夏・壱5

 維知香が言った通り、夕餉の食卓は豪勢で、会話の途切れない、楽しい時となった。しかし昼間…

Luno企画
1年前

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 夏・壱6

 深遠は黙して言葉の続きを待った。吾一は卓上に視線を固定したまま、静かに音を再開させる。…

Luno企画
1年前

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 夏・壱7

 正直に胸の内を吐き出した。その安堵なのか、若干心が軽くなったように感じる。本当に、わか…

Luno企画
1年前

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節  冬・参1

 時が訪れたのは、如月の朝。身を律するような冷気に満たされた山林を、深遠と維知香は歩いて…

Luno企画
1年前
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宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節  冬・参2

 維知香が自らの変化に気づいたのは、産院を出た瞬間だという。寒いという感覚に恐怖を覚えた、と維知香は語った。  生まれたばかりの子に【宿り】がないか、吾一は知りたがった。真実を伝えるべきか、偽って桜子の心を守るべきか、迷った挙句、選んだのは後者。宿災だからといって、必ずしも祓いを覚えなければないわけではない。深遠がそばにいて、災厄との通じ方を、他者への隠し方を、授ければよい。 「あの子、私とも、貴方とも、同じ……そして、どちらとも違う……いままで、こんなことってあったのか