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宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節

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槙 深遠(まき しんえん)は、時の流れの異なる空間を往来しながら結界の修復を続ける【脱厄術師(だつやくじゅつし)】。主従関係にある鷹丸家の娘、維知香は、その身に災厄を宿す【宿災(…
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2023年7月の記事一覧

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 秋・壱1

 他者の気配のない空間。足元は砂地。しばらく雨は降っていないようで、歩くたびに、乾いた砂…

Luno企画
1年前

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 秋・壱2

 この空間で誰かと過ごすのは、いつぶりだろう。深遠はおそらく思い出せないであろう遠き日に…

Luno企画
1年前

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 秋・壱3

 水に浸して柔らかさを取り戻した野菜と粗塩を入れただけの、質素な粥。しかしひとりではない…

Luno企画
1年前

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 秋・壱4

「なあ、深遠。鷹丸家のお嬢さんは、脱厄術師の任を理解した上で、思いを寄せてくれているんだ…

Luno企画
1年前

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 秋・壱5

「彼女の気持ちは、ありがたい。存在も、とても大切に思っている。許されるのなら、ともに時を…

Luno企画
1年前

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 秋・弐1

 奥多摩の秋は賑やか。木々は各々の色に染まり、虫達は己の命を確かめるかのように音を奏でる…

Luno企画
1年前

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 秋・弐4

 秋の夕空。深く滲む赤。眩しさに目を細める。しかし太陽が山に隠れるその時まで、目を離さずにいたい。そう思わせる力は、一体どこからくるのだろう。 (やはり大きさだろうか……いや、力強さか……)  深遠が知る【自然】の中で、太陽は最も大きな存在。そこから力を分けてもらおうなど身の程知らずも良いところだが、己を鼓舞し、自らの背を自らで押すために、偉大な存在の力を感じておきたかった。  次に維知香に会った時、思いを伝えよう。そう決心すると妙に心が穏やかになった。いつまでも迷って

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 秋・弐5

 自分の左を手で示した菊野。深遠は戸惑いを覚えたが、会釈を見せ、菊野の隣に場を移した。 …

Luno企画
1年前

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 秋・弐7

 深遠は素直に疑問を顔に表す。そういう顔をするだろうと予想していたのか、菊野は目尻に皺を…

Luno企画
1年前
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宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 秋・参1

 菊野を送り届け、深遠は門の前で頭を垂れた。高ぶりは菊野と並び歩くうちに、己の深部へと身…

Luno企画
1年前

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 秋・参2

「灯馬に、聞いた?」 「君と友人になったと……とても喜んでいた。ありがとう」 「感謝してい…

Luno企画
1年前

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 秋・参3

 唐突に。維知香は両手を川面に向けた。穏やかな流れの一部に変化。  水は細い筋となって天…

Luno企画
1年前

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 秋・参4

 どれほどの時間、そうしていたのだろう。どちらからともなく身を離し、視線を交える。自分が…

Luno企画
1年前

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節  冬・壱1

 霜月は、昨日去った。空に青。日差しは柔らかく、ゆったりと流れる雲との調和が心を和ませる。深遠が維知香と暮らし始めて、一年と少し。その間一度も、深遠は【あちら側】に行かず、維知香とともに、季節の移ろいを味わいながら暮らしていた。  昼を目前に、深遠は庭の北東の角で、地面を掘っていた。湿気を含んだ層に辿り着き、次の作業へ取り掛かろうと立ち上がると、乾いた空気に、ほんのりとした甘みが加わった。  香りの源は台所にある。維知香が作る料理だ。さて、献立は何か。深遠が甘みの正体を探