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宿災備忘録-発

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信じる。信じない。教えてくれるものは、いない 生まれながらに災厄を宿した存在、宿災/しゅくさい その運命に生まれたものと、ともに生きるものたちの記録 自らの中に真実を求める、…
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2024年7月の記事一覧

宿災備忘録-発:第3章1話①

月夜にいななく高らかに いずこいずこと高らかに 声 枯れ果てて風に嘆き 空をさまよい何も届…

Luno企画
3週間前

宿災備忘録-発:第3章1話②

平静を装う美影の隣で、鷹丸は短くなったタバコを携帯灰皿でもみ消し、最後の煙を吐いた。タバ…

Luno企画
3週間前
1

宿災備忘録-発:第3章2話

湖野の中心部から離れた高台に建つ、老人介護施設。鷹丸は、雨が弾ける駐車場を横切り、半ば駆…

Luno企画
3週間前
4

宿災備忘録-発:第3章3話

香織の美容室。店内にいるのは、香織と中森、2人だけ。リクライニングチェアで仰向けになり、…

Luno企画
3週間前
4

宿災備忘録-発:第3章4話

山護美影についての報告書 山護美影の出自について、湖野の産院で半世紀近く助産師を務めて…

Luno企画
3週間前
1

宿災備忘録-発:第3章5話①

九十九山。雑木林の只中。雨音が空間を満たしている。鳥も虫も、木々の枝葉も、全てが雨に主役…

Luno企画
3週間前
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宿災備忘録-発:第3章5話②

「私、あそこを開けて、あの中に」 言葉の途中で、美影は駆けだした。確かめなければならないことがある。玉砂利を鳴らして走り、祠の裏手へ。 「こっちも閉じてる……私が?」 「閉じたのは、久遠です」 灯馬が横に立った。 「美影、あの夜のことを、貴方の口から教えてくれますか?」 灯馬に頷きを。久遠もそこにやってきた。取り戻した記憶を、美影は2人に伝えた。 降りだした雨 高揚していく気持ち 誰かが呼んでいる 呼んでるのは誰? 外に出た 雨に触れた あの場

宿災備忘録-発:第3章5話③

「ひとつ目は、石」 「え?」 「ふたつ目は、祠」 久遠の視線につられ、美影も祠に顔を向け…

Luno企画
3週間前
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宿災備忘録-発:第3章6話

「あちら側に入る前に、災厄の解放の仕方を、教えておきたい」 祠の前で、久遠と美影は向か…

Luno企画
3週間前
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宿災備忘録-発:第4章1話①

昔あった話だと。雪溶けの頃、浜のほうから来た商人、山越えて行く途中で陽が暮れて、山ん中の…

Luno企画
2週間前
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宿災備忘録-発:第4章1話②

月夜にいななく高らかに いずこいずこと高らかに 月 微笑みて我を照らし 今宵も我に何も語ら…

Luno企画
2週間前
2

宿災備忘録-発:第4章2話①

白馬が刻む、一定のリズム。美影は、鼓膜を震わせる小さな音を追い続けた。妙に胸がざわつく。…

Luno企画
2週間前
1

宿災備忘録-発:第4章2話②

「だめだ!」 声を放ったのは、茜色の着物に身を包んだ少女。美影と久遠、2人の視線を受け…

Luno企画
2週間前
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宿災備忘録-発:第4章3話①

空間から言葉が消えて間もなく、白馬の嘶きが響いた。素早く反応した久遠は裸足のまま小屋を飛び出し、すぐに立ち止まる。美影も裸足で外へ。 小屋の前にフキの姿。厩から戻ってきたばかりなのか、両手は土で汚れている。顔は強張り、微かに震えているように見えた。 「みこさまが……あねさんらをよんでる」 震えた声。繰り返される嘶き。美影はフキのもとへ。久遠は白馬の声のするほうへ。 厩への道標は、フキが作った歩幅の狭い足跡。それを踏みながら久遠は進む。美影はフキの手をとって、久