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Lunatic tears _ASTERISK 1

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Lunatic tears _ASTERISK 第1巻「静寂に奏でるアリア」
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記事一覧

LTRA4-7「Edge Of Metropolis」

 経緯が経緯だけに、臨海署に連行された6人の取調は長かった。特に流雫とアルスが長く、残る4人は休憩室の端で2人を待っていた。
 臨海副都心が一望できるフロアから外を眺める、プリィとセバス。それから1人分離れ、澪と詩応が並ぶ。
 渋谷で流雫に抱かれて泣いていた少女は、父親の前では誰より気丈に答えていた。一頻り泣いたから、後は求められる役割を全うするだけだと思っていた。そしてそれも終えた今は、愛しい街

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LTRA4-6「Blessing Rain」

 銃声が鳴ったと同時に、ドイツ人の白っぽい皮膚に赤い線が走り、痛覚の反応に歯を軋ませる。目の前には、表情を変えないフランス人。
「何……?」
と呟くモンドの目に、震える銃口が映る。その主は、小城に馬乗りになるボーイッシュな少女。その目は、殺意を帯びている。
「お前……!」
モンドがドイツ語を張り上げ、詩応に銃口を向ける。それと同時に
「アルス!」
と少年の声が響き、銃が宙を舞った。……日本人でなけ

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LTRA4-5「Kill Me If You Can」

 モンドは流雫に銃口を向ける。小城が返り討ちに遭うのは、完全に予想外だった。
「テネイベールと同じ目をしやがって……」
そう言ったドイツ人が引き金を引くと、流雫のすぐ隣を銃弾が飛ぶ。
「流雫!」
詩応が声を上げ、モンドに銃口を向ける。しかし流雫は
「破壊の女神が破壊するのは、お前の思惑だ」
とだけ言った。
 アルスや詩応を通じて、太陽騎士団のことは少しばかり知っている。自分が教典上の破壊の女神なら

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LTRA3-9「All For」

 ヴァイスヴォルフは一命を取り留めた。そう父親から聞いた澪は、そのことを流雫に告げる。2人揃って安堵の表情を浮かべた。
 ……敬虔さが裏目に出たとは云え、或る意味ではあのドイツ人も被害者。誰もが被害者、澪が言った言葉が流雫の脳に焼き付いている。
「でも」
と澪が声に出す。
「これで全てが上手くいくといいな……」
「上手くいかないと……プリィやアリスの未来は無いからね」
と流雫は言った。
 あの空港

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LTRA3-1「Disguised Orphan」

 不鮮明ながらも開けていく視界が、最初に捉えたのは、白い天井だった。そして目元には、クリアグリーンの何かが見える。酸素マスクか。
「……助かったんだ……」
誰にも聞こえないほどの声で呟く流雫。しかし、それよりも気になることが有る。
 顔を左に向けると、其処には同じようにベッドに寝かされている少女がいた。
「澪……」
弱々しい声で、最愛の存在の名を呟く流雫。
 ……胸は微かに動いている。生きている。

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LTRA4-2「Against Devil」

 「どうしました?私の名前を読み上げるだけでしょう?」
と言ったのは、端で壁に背を向けて立つ聖女。痛まない、自由に動く左手を自身の胸の上に置く。
「待て!」
反響するモンドの声を掻き消すように、アリスは……否、プリィは礼拝堂に力強い声を響かせた。
「プリィ・フリュクティドールは、以上のように宣誓します」
 その瞬間、大きな困惑の響めきが上がった。目に怒りを滲ませるドイツ人は歯を軋ませ、
「……非常

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LTRA4-4「Bullet Behind Tears」

 「ルナに手を出すなら、あたしが相手になるわ!」
と声を張った澪に、モンドは
「ならば居場所を教えろ!」
と返す。
「アリスの居場所はアタシも知ってる、でもアンタなんかに教える気は無い」
と、今度は詩応が言う。
「今度はアタシを粛清する気かい?禁断の聖女を匿う反乱分子として」
英語の挑発に、モンドは末端信者としての無知を嘆く。
「俺はやがて、教団を率いる身だ。お前らのような単なる信者とは違う」

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LTRA4-3「Bad Guy Role」

 「逃げろ!!」
流雫が叫んだ。しかしその声が届く前に、爆発音に似た銃声が響く。周囲の時間が一瞬止まった。緑の服の男の腕付近から煙が上がり、背振の顔がそれに向く。それこそが狙いだった。
 二度目の銃声。文字通り銃口が煙を噴くと、背振自慢のオートクチュールのスーツに血が滲む。数秒前まで覇気に満ちていた男は、一転して薄れる意識と戦っていた。ここで気を失えば、間違い無く死ぬと判っている。
 男はバックパ

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LTRA4-1「End Of Holy Girl」

 朝一、信者に緊急の招集メールが届いた。渋谷の大教会にて緊急集会を開き、教団の未来についての重大発表を行う。来場するように、とのことだ。それにはモンドリヒトと署名が入っていた。
「……動き出したか……」
と詩応は呟く。それに反応したのは同室のアルスだった。日本語は判らないが、何か有ったことだけは想像できる。
 流雫とアルスはホテルでもよかったが、ほぼ連日それも如何なものか、と思った澪が、半ば強制的

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LTRA3-8「War For Accession」

 フランス人が避けながら突き出した足は、男の脛を引っ掛けた。文字通り足下を掬われた男は、盛大に転んだ弾みで銃を落としている。反撃の心配は無い。予想外の呆気なさに、アルスは僅かに唖然とする。
 男の後ろ首を掴み、腰に膝を突き立てる詩応。その表情には殺意を滲ませている。
 ……澪や流雫を危うく殺されるところだった。アルスと同じ黒幕への怒りが、その手下と思しき男に向く。 
「……背振は何処にいる!?」

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LTRA3-7「Broken Gears」

 ヴァイスヴォルフが、トラッカーを仕掛けられていた。完全に予想外の出来事だが、アリシアに伝える時間は無い。詩応は
「救急車が来るまで、アタシがつく!」
と言い、銃を持ったまま周囲を見回す。アルスが銃を持てない以上、今ヴァイスヴォルフを直接護れるのは彼女だけだ。
 詩応の視界に怪しい影は無い、但し今の瞬間は。ボーイッシュな少女は警戒を緩めない。
 白昼堂々、しかも割と近距離からの犯行。近くにグルがい

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LTRA3-6「Will In Abyss」

 ツヴァイベルク。アルスはその名前を思い出す。何度か耳にしたことが有ったからだ。
 「20年前、後に血の旅団を結成する過激派の連中を、片っ端から追放したことでも知られている。異名はムッシュ・エピュラシオン。ミスター粛清と云う意味だ」
とアルスは言う。彼が生まれる2年前から、その異名は変わっていない。
「今度は、クローンと云う反乱分子を粛清しようとした?」
「アデル失脚の報復として。そうとしか思えな

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LTRA3-5「Pride Of Mother」

 アルスから見せられた写真と同じ顔のドイツ人が、2人の目の前にいる。その片方は、テネイベールと同じ瞳の持ち主。2人の名前を知らないヴァイスヴォルフが、破壊の女神の名を口にしたのも或る意味では仕方ない。
 2人のことは、事件の動画で見ただけだ。
 腕時計に触れながら澪の1歩前に出た流雫は、しかし少し様子が違うことに気付く。ポーカーフェイス然としていても拭えないハズの戦意は、微塵も感じられない。
 「

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LTRA3-4「Unexpected Consensus」

 小さめの声で繰り広げられたフランス語のラリーは、店内の雑踏に容易く掻き消される。しかし、流雫とアルスにとっては好都合だった。
「前聖女の……」
と流雫は言う。アデルに関しては夜中、アルスから一通り教わっていた。
 「資質を理由とした失脚は前代未聞だ。本人にとっても最大の汚点だろう。だが、総司祭の過干渉がそうさせた。アデルもその意味では被害者だ」
一度は聖女に選ばれたのだから、やはりその点は評価さ

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