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作詩-言葉たち-

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言葉を紡ぎ 詩を編む。 電子の海に浮かぶ一遍の詩集をどうぞご賞味くださいませ。
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2014年11月の記事一覧

虞美人草

宮の深く 帳の奥
薄衣覆う温室で
蝶よ花よと舞わせてくれた
わたしを花より愛おしんで

どんな処でも ふたり離れず
連理の翼より深く根ざして

炎が迫り 追われた窟
歌うあなたに舞いましょう

あなたの華が咲く為の
蝶は蜜を枯らしてしまった
翅は重く もはや飛べない

ならば この翅
散らしましょう
あなたが咲かせる華より鮮やかに

ついえた鱗粉
花となり
紅の赤を咲かせるでしょう
幾年経とうと 

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夢花火

眠れない夜に ひとり
爪弾く夢の音
残り火すらなく
夢に立ち昇る

弾け切れた弦のように
心地よさを憶える不協和音
残る痛みは切なさというものだろうか

乾いた空気 刺さる夜に
見上げる月はどこか優しい
冷たい光で射られようとも
滲むぬくもりは変わらないね

真夏の夜の花火は
大らかな余韻を残すけど
冬の花火は寂しくもあり

オナジなのに 違ウ
夢と現実のような景色

朝が来てもまだ起きていようか

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白亜の薫

空の蒼に融け込むこともできず
佇む 白亜の神殿
いつの時代から
時を止めたように
最期の刻を朽ちることなく
其処に在る

何を待っているの
その腹に守る女神は
もういないというのに

神々の残り香を現在-いま-に刻む
石の社は
まだあんなにも雄々しく
あの日の記憶を垣間見せる

天に上げられた乙女
愛を汲んだ葡萄酒の香り
恋の歌を竪琴に奏でれば
月桂樹の冠を戴く言ノ葉は
石に刻まれ 固く固く継がれ

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花刻印

死に向かう手向けの花を
あなたに捧げましょう
あなたを守る鋼の甲冑
刻んでくれた見送りの花

君が手向けるその花を
鋼の衣に刻みつける
我が鎧 散る時に
君の花もまた共に散るよう

赤い涙が鋼を染める
振るう剣は君を守ると
信じ 進めど 終わりは来ない

戦の狼煙は止むことなく
空に昇る日々が続きます
戻らぬあなたに捧ぐ花も
もうこれっきり 手向けられない

赤く錆びた手向けの花が
不意に欠けた 

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宝珠の華

幻想の森
翠の影に覆われた世界は
瞬の時に 留まる

葉からくずれた雫
木々のささめき
風の囁きも
すべて 音を失くす

あの子の目覚めを阻まぬように

朝が天高い木々を擦り抜けて
木洩れ日を降り注ぐと

あの子が目を覚ます

真白の華よ

すべてがきみのため
瞬きをとめた

穢れなき花びらを
ゆっくりとひらき
朝のひかりをその身に受ける

翠いろの闇に覆われた彼の森に
彼女はまさしく
輝く華であ

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涯ての果て

闇を垂らした灰色の空
暗雲垂れ込めるこの世界に
ひかりは きたるか

神は もうイない
人は 畏れを 喪くしてしまった

神は ヒトが畏れ 敬うゆえに
力を顕し 存在する

畏れを失くした場處に 神は居らず
形だけの十字が朽ちかけるだけ

流された涙と血は
消せないまま大地を穢し
其の地に生まれし 生きとし生けるものみな
穢れのままに争いをやめられぬ
土地も 其処に根差す草木も水も
争いの気に毒さ

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紫の夜に百合を手折る

覗いた万華鏡
光に透かされて咲く
紫いろの硝子花

張りつめた弓のような月が
今でも眩しいあの夜に
私を巻き戻すの

わたしに赤い花をくれた
許されぬ愛と知れども
開かずにいられぬ蕾のように
息をするように咲いた
この こころを
捧げたのです

月夜が刻んだ疵は
どれくらい痛んだのかしら

夜の逢瀬
月を背に
微笑むあなたは
それきり二度と現れなかった

あれからわたし
鳥籠の小鳥
いつか羽も捥が

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透明な青

透明な空気を幾重にも重ねて
空が果てない青を抱く

どこまでも遠い空なのに
まるで牢獄
高みから見下ろす貴方は
神の御座所たるに相応しいのだろう

白砂が覆う地表は
空にぶつかるまで続くかのよう
果てしなく

わたしはどこにいるのか

涙はとうに喪われ
みずうみは涸れてしまったのだろう
太陽のなんと無情なことか

乾ききった目に
優しい筈の風さえ痛い

砂に刻んだ足跡もとうに無い
此処には今しかな

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海の花

海の花
誰も見たことがない
誰もしらない

何処に在るのか
いるのかも
誰もしらない

深い海の底
波の狭間
陽の光と 海の邂逅の 刹那
泡粒の向かう先

何処にもないのに
わたしの裡はしっているの
きっとみんな しっているの

海に向き合えば
確かに感じる

潮騒が燻らす薫り
波の雫に舞う花弁
そして涙をこぼして流せる
それを赦してくれる場所

母より大きく根源
生命に抱かれていると教えてくれる

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涙の露

緑の朝
零れた涙は
朝露に紛れて光を受ける

ため息を吐くことすら
できなくなっていたなんて

堪えきれなかった苦しさは
一雫の涙にしか換えられなかった

本当は夜露に迷いこませて
朝の訪れとともに
なかったことにして仕舞いたかったのに

朝は無情に
私の涙を煌めかせるのね
たった一雫
無慈悲な太陽なら
光の前に掻き消してしまえるはずなのに

雨でも降らしてしまえばいいのに
どうやら今日も青空みた

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真の闇色

闇の奥には何がある?

真の闇は何色でしょう?

それは白
真っ白なのよ

だからみなさん
キレイすぎる白にはご用心
闇の奥へ連れてかれちまう

不思議な笛吹きの音色のように
ハロウィン祭の生者のように
戻って来られなくなるからね

それでも見たいと云うのなら
止めはしないよ さあどうぞ
闇の奥へと逝ってらっしゃい

闇の国への片道切符
踏み出した途端
もう戻れない。

©2014  緋月 燈

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