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作詩-言葉たち-

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言葉を紡ぎ 詩を編む。 電子の海に浮かぶ一遍の詩集をどうぞご賞味くださいませ。
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2014年9月の記事一覧

ブルー・フラワー

種は土にありました
土の中で目覚めの時を待つのです

光に焦がれて
伸ばした芽

初めて目にしたのは
火傷しそうに鮮やかで
鋭く目を焼いた
空の色

一瞬の青に
刻まれた永遠

でもどうして?
見渡すばかりの緑なの

ようやく逢えたお姉さま方
追いかけてきた妹たち
緑しか知らぬかのよう
一緒だわ

緑も綺麗 綺麗だわ
でも待って
どうして同じ 同じなの?
頭上に輝く美しの青
どうしてわたしは青じゃ

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夜の燈火

その子が生まれて幾年が経ったでしょう

春が新しい生命を生み
幾重の風も生まれて行った

夏を引き連れ初夏となり
太陽が輝き増す膝元に
風も生まれ駆けてゆく

そして末の子生まれたけれど
輝きも盛りの夏の日に
太陽の光に耐えられない

太陽が照るとき生まれたというに
風の子は光に耐えられない

きょうだいは真夏の日差しに美しく
光を受けて歌うのに
わたしはあの光の祝福
賜ること能はず
すぐに疲れて

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空の君へ

大空に散った友よ

あの日と同じ色をした空の下に
僕は今も生きている

僕の時計は今も
君が天へと消えた時のまま
針を止めている

いつか君のもとへ逝くとき
僕は何を言えるのだろう
君も知らぬ我が友への約束
果たせたのかもわからないのだ

あれから何ひとつ変わっていないかもしれない
何かが変わったのかもしれない
もしかすると僕より君が
知っているのかもしれないな

嗚呼 あの空を君はまだ翔けている

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石の花

遙か 時 遡る
人が忘れし遠き日に
少年は少女と出逢い生きていた

二人が世界 世界は二人
愛しあうことが幸福
死が二人を別つまでは

願いを叶えよう
愛することだけ願った君の
最期の望みを叶えたい

貴方の傍にいたい
涙と共に零れ落ちる
願いは儚くて宇宙の塵のよう

残された最期を二人涙せぬようにと
少女は絞るように
唇震わせた

ああ、花を
枯れることなき石の花
二人が永遠になれるような花が欲

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月のない夜

星降る夜に貴女はいない

こんなに煌めく空も
貴女がいなければ闇と同じ

夜の海に漕ぎ出そう
貴女がいない夜は
淋しくてたまらないから

わたしを包む波音も
涙を咲かせる如雨露

星のささめきも
今はただ煩わしい

ねえ どこにいるの
わたしを見つけて
貴女がいないと
自分すら失くしてしまう

貴女の光で照らして
この身体が
陰に溶けてしまう前に

©2014  緋月 燈

真昼の蝶

真昼の夢をみている
覚醒の時を生きる人の群れ
夢をみている私

それともこれは胡蝶の夢?
夢をみているのはどちらでしょう

ああでも
わかっているの

日常という繭に揺蕩う幼生たち
罅割れた楽園を手放し
夢は終わらせなさい
醒めてから視る夢へと
羽搏きなさい

縫い閉じた目蓋を
そっと解いて
冷たい世界へ歩き出す
でもその世界は
いまよりきっと辛くて幸せ

さあ手を延ばして
あなたの夢を捕らえまし

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刹那の君

あの時の夕日を
僕は覚えていない

君との別れを彩ったはずの色を
哀しいほどに

夕日は一瞬を刻むことすら許されないまま
変わっていってしまうから
忘れる前に忘れてしまうんだ

だからあの日僕が憶えていられたのは
君の事だけなんだ

©2014 緋月 燈

巣立ち

この腕を翼に変えることができたら
僕はどこまで飛んでいけるのだろう

飛び立ちたくて
体に力を入れても
僕の身体は巣の中
伸ばしたことすらない翼を畳んで
留まっている

風は歌いながら誘うけど
僕の脚に絡むのは
僕の意思か巣の意思か

でももう此処を出なきゃ
僕の心はそう言っているから

最後の一歩
たじろいでしまっているけど
すぐにきっと飛びたつよ
だから待っていて

©2014 緋月 燈

刻の柩

セピアがかった硝子色の視界
ミュシャの色絵のような葉は
萌える緑より色濃く薫り

木々と共に刻むあの時計が示すのは
幼い頃 森の奥へと置き去りにしてしまった
あの頃のわたしでしょうか

噎せ返る緑に葬られた時間は
今も幽かな鼓動を遺して
息づいているの?

心臓を取り出して
あの柩へと納めたら
あの頃の夢に帰れるかしら

花も鳥も風も月も
ただひたすらに美しかった

繁る葉の奥
少女の睡りを守るよ

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