夜の燈火

その子が生まれて幾年が経ったでしょう

春が新しい生命を生み
幾重の風も生まれて行った

夏を引き連れ初夏となり
太陽が輝き増す膝元に
風も生まれ駆けてゆく

そして末の子生まれたけれど
輝きも盛りの夏の日に
太陽の光に耐えられない

太陽が照るとき生まれたというに
風の子は光に耐えられない

きょうだいは真夏の日差しに美しく
光を受けて歌うのに
わたしはあの光の祝福
賜ること能はず
すぐに疲れて眠りに堕ちる

きょうだいの誰もいない夜に ひとり
繭の中
誰も聴かない歌うたい
誰と踊ることもない

夏に輝く昼の世に生まれ落ちたのに
夜の世界にしか生きられない
光を求めてやまない 心は確かに在るのに
夜の闇にしか生きられない
「どうして生まれてしまったの」

泣いて泣いた幼い瞳は
涙に曇る

そして 夜半の目覚め
夜に煌めく静かな川の水に醒めた

曇り晴らした瞳が見上げた空は
確かに光に満ちていた

夜の褥 籠る風が
初めて見上げた望月 星灯り
夜がこんなにも美しいと教えてくれる

涙に晴れる瞳
闇と思っていたこの夜にも
こんなに光があったのね
時に月はいなくなってしまうけれど
また姿を見せてくれる
ああ 星も歌っているのね
月に霞んでも命の炎を燃やしているわ

そして風は歌い 踊る
夜の美しさを 月のやさしさ 星灯りのせつなさを
わたしだけの時間のなんと愛おしいかを

夏の風の子が生まれて
幾年が経ったでしょう
あの子は今 微笑んでいるよ


イメージソング

志方あきこ「光降る場所で ~Promesse~」


©2014  緋月 燈

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