刻の柩

セピアがかった硝子色の視界
ミュシャの色絵のような葉は
萌える緑より色濃く薫り

木々と共に刻むあの時計が示すのは
幼い頃 森の奥へと置き去りにしてしまった
あの頃のわたしでしょうか

噎せ返る緑に葬られた時間は
今も幽かな鼓動を遺して
息づいているの?

心臓を取り出して
あの柩へと納めたら
あの頃の夢に帰れるかしら

花も鳥も風も月も
ただひたすらに美しかった

繁る葉の奥
少女の睡りを守るように
あの日の時計が仮死を刻む
止まった時間のその涯てに
目覚めがあるかもわからないのに

だからわたしは
あの子を迎えに往きましょう
代わりに手にしていた時間には
何の価値もないのだから

あの子と再び寄り添えるように
濡れた森を歩いてゆく

かつて通ったこの道を
また迷い込んでゆく


©2014 緋月 燈

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