旅するカメオの指輪
仕事の帰り、くたくたのまま銀座線に乗って座った。
目の前に立ち、お友達とお話しされているご婦人の指にあるカメオの指輪。
まずは、額の金色から目に入り、丸の大きさと貝の色味、そして彫られた横顔が目に入った。
この指輪とそっくりな指輪を持っていた。
いや、同じものにしか見えなかった。
巴里によく買い付けに行くというアンティークショップの店主と、
その昔、夏の軽井沢の蚤の市で出会った。
高円寺にお店があると聞いて行った時に、カメオの指輪を購入したのだった。
サイズ直しをしてしばらくつけていた。
どなたか、仏蘭西の方が私の前に付けていたと思うと、いろんな妄想に浸れるものだ。
ある日、そろそろ他の方のところに行く気がして、SNSオークションに出した。
旅をして行く指輪というか、カメオの横顔の婦人が旅をしたがっている・・・気がした。
私が以前の指輪の持ち主に淡く美しい妄想をしたように、実は指輪に彫られた婦人自身が、色々な人に出逢いたいような、そんな気がしたのだ。
この指輪の婦人には『意志』があると、前々から思っていた。
そして辿り着いた先が、メトロの中で私の前に立たれたご婦人?
本当に?
こんなに世界は広いのに!!!
私は、縁あるものというのは、そういうものだと知っている。
「見て!今も大事にしてもらっていて、私は幸せよ。
あなたといた時とは、また違う景色を見ているわ。
安心して。
良い旅をしているから。」
そんなふうに言われたような気がした。
私は、次の駅で乗り換えだ。
「良い旅を!」
と、指輪の婦人に合図を送った。
書くこと、描くことを続けていきたいと思います。