見出し画像

ルラメイ

江國香織の『とるにたらないもの』という本を、たまに読み返す。
短い文章が束ねられているので、パッと開いたところを読む。


「ルラメイ」。
ここに出てくる「ルラメイ」とは、江國香織が名づけた蝶の、標本である。
そして、ルラメイは、「ティファニーで朝食を」の自由で気まぐれな主人公
ホリー・ゴライトリーの本名である。
田舎町の農場主の妻だったときの名前が、ルメライだった。

「ティファニーで朝食を」は、なぜか、何度も見てしまう。

ニューヨークのダウンタウンで買ったという蝶は、

羽根全体が青や紫の、これみよがしに大きな蝶々ばかりの中で、彼女のたたずまいは、それはきりりと可憐にみえた。俊敏で気の強い蝶だ、という感じもうけた。
ルラメイという名前をつけた。彼女はまさにルラメイで、それ以外の名前は考えられない蝶だった。

ニューヨークで出会ったピンクのルラメイは、著者の密かな宝物なのだと書いてある。
小さめの蝶で、透明な羽根には葉脈というのか血管というのか、褪せた焦茶色の線が入っていて、羽根の下半分に鮮やかなピンクがぼかしこまれている・・・。
想像するに、それは、スカシジャノメという蝶ではないか、と思った。


ホリー・ゴライトリーは、自由を手に入れるために、ルラメイという名前ごと、田舎町も夫も捨てた。
その生い立ちからして、囚われた心を持っていたことを思い出した。

「ホリーは自分が作った檻の中に入っている。そして、その檻はどこへ行っても付き纏うだろう。」


その言葉が思い出される。
ルラメイからホリー、そして、もっと自由な心になれるように・・・。
その名前が、蝶につけられたものだと知って、なぜか頷いてしまった。




この記事が参加している募集

#とは

57,961件

#読書感想文

191,797件

書くこと、描くことを続けていきたいと思います。