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LAPUAN KANKURIT|フィンランドコラム

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フィンランドのテキスタイルブランドLAPUAN KANKURITさんのnoteにて、「Design&Art」シリーズを寄稿しています。写真と言葉による新たな視点をお届けします。
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#風景

Design&Art|Colors in Finland 〈06.フィンランドの色〉

「我々はスウェーデン人には戻れない。ロシア人にもなれない。そうだフィンランド人でいこう」 かつて、隣国からの支配と自国の独立の狭間にいたフィンランド。この言葉は当時のフィンランド人に民族意識を与え、結束、そして建国への後押しとなったといいます。 100年ちょっとの北の国。この地に生きる人びとは、自分たちの特色を、自分たちが誇れる景色を、すなわちフィンランドの「色」をずっと探し続けてきました。 “フィンランドデザインからは、自然を身近に感じていたいという人々の純粋な欲求と

Design&Art|Colors in Finland 〈05.レッド〉

フィンランドの「色」が織りなす風景をご紹介する「Colors in Finland」シリーズ。今回はクランベリーパウダーの赤色を出発点に、人やモノ、都市から自然まで、様々な風景をお届けします。 赤から連想されるもの。たとえば森のベリーや野花、街中の信号やポスト。紅葉や提灯、鳥居など。空の青や木々の緑と違って、赤は「面」というより「点」として存在していることが多く、他の色よりも目立つ存在・特別な状態なものとして感じられます。 「赤」とは、他の色とはすこしだけ距離のある、わず

Design&Art|Colors in Finland 〈04. ブラウン〉

フィンランドの「色」が織りなす風景をご紹介する「Colors in Finland」シリーズ。今回は、秋の乾いた風に漂う落ち葉のブラウンを出発点に、様々な風景をお届けします。 春の新緑にはじまり、時の経過と共にその色を変えてゆく木々の葉たち。最後は、新たな生命のための養分として地に還るという一連の巡りは、人生そのものに例えられたり、人という生命の儚さと重ねて語られることがよくあります。 夏の終わりの切なさや、秋の風がもたらす感傷は、そこに自分自身の残像が含まれているという

Design&Art|Colors in Finland 〈03.イエロー〉

フィンランドの「色」が織りなす風景をご紹介する「Colors in Finland」シリーズ。今回は、道端で見つけた野花の黄色を出発点に、様々な風景をお届けします。 自然界には数多の色がありますが、その中でも黄色のもつ明るさ、ポップな印象は唯一無二です。花びらの黄色は、時に希望の象徴としての意味を持つものです。 ヘルシンキの街には緑色のトラムと青色のバス、そしてオレンジ色のメトロが走っていますが、古都トゥルクでは黄色のバスが街の風景を彩ります。 バスのなか。手すりの色が

Design&Art|Colors in Finland 〈01.ブルー〉

世界は光に、そして色にあふれています。 色は時に人の感情を大きく揺さぶり、また過去の記憶を、遠い風景を思い起こさせてくれるものです。ゆえに、芸術において「色」はつねに重要な役割を担いつづけ、それは絵画でも、映画でも、舞台でも、そしてデザインでも同じことでしょう。 新たに始まるコラムシリーズ「Colors in Finland」では、フィンランドの「色」に焦点を当てて、色が織りなす風景・物語をご紹介していこうと思います。 今回は、フィンランドの夏の風物詩「ブルーベリー」の

Design&Art|デザインを探して 〈05. 神秘の森のその先へ〉

フィンランドの森には妖精がいると、どこかで耳にしたことがある。それはムーミンのことかもしれないし、赤い帽子を被った小さなエルフのことかもしれない。その真相は、森の中。誰も知る由もなく。 “ なにかがわかるまでに、とても時間がかかることがあるものなのよね ” ムーミンママは、本の中でこう言います。あのムーミン谷すらも、どこにあるのかだれも知らないのだから、ひとつやふたつ、フィンランドの森に秘密があってもおかしくないでしょう。 フィンランドの森に惹かれて。 神秘の森の、その

Design&Art|デザインを探して 〈04. 車窓で旅をして〉

街の風景を窓に描く路面電車は、まるでうごく映画館みたいだ。なんて、空想にふけることがたまにある。 反復する街路樹と北欧らしい石造りの壁、どこかへ向かう人々、なにかを訴えている広告看板。空、風、雨、そして光。 なにかが関係しているようで、実際は関係もしていない小さな街の要素が、予測しない速度で、タイミングで、目の前に差し込まれてくる。まとまりのない物語が走馬灯のように、近づいては遠くに過ぎ去ってゆく。 前回のコラム〈03. 光の地下散歩〉では、ヘルシンキの地下に広がる美し

Design&Art|デザインを探して 〈02. ヘルシンキの残像〉

「見えない」ということが、かえって何かを予感させてくれる。 そんな美しい詩みたいな時の流れが、きっと日常にはあるはずだ。 失われた時を求めて、不確かな輪郭を掴もうとして、何かをもっと見ようとする。精一杯に感受しようとする。 まるで、冬の空気に澱む春の香りを感じるように。 フィンランドに住んでいた頃、ひとつの素晴らしいカメラに出会いました。 私たちが留学していたアアルト大学では、専門的な機材を無償で学生に貸し出してくれていて、その中にはとても高価なものや価値の高いものが

Design&Art|デザインを探して 〈01.黄昏の海〉

私たちlumikkaによる「デザインを覗く」シリーズは、新たな視点で再スタートします。今回からのテーマは「デザインを探して」。長らく、遠くの場所から眺めることしかできなかったフィンランド。少しずつ、少しずつではありますが、いま、北への扉はまた開こうとしています。 旅をしませんか、デザインを探して。 このコラムでは、土地を歩いたかつての記憶を頼りに、フィンランドのデザインやデザインの種となる美しい風景を探す旅に出かけます。おだやかな波のような、言葉と写真がゆらぎ混ざりあう記

Design&Art|デザインを覗く 〈11.青い光の街〉

“the blue of our lakes and the white snow of our winters” フィンランドの色彩を綴ったひとつの詩。 これは、青い十字の国旗を表す言葉でもあるそうです。 ヘルシンキの街には、青い風景が溢れています。 陸地に点在する湖はもちろん、南のバルト海や頭上に広がる大きな空。ひと言で定義することのできない美しい青のグラデーションが街の風景を彩ります。 水平方向に広がる水の青と、垂直方向に広がる空の青。広大なふたつの「青」を日常

Design&Art|デザインを覗く 〈10.生活と風景〉

人の生活には、風景があります。 街を歩くこと、人と会うこと、話をすること。 木々を眺めること、空を見上げること。 そのような生きる上で欠かせない活動=生活は、人の心にさまざまな感情をもたらしてくれるもので、人間が人間らしく生きてゆくための礎ともなります。生活は感情を生み、感情の揺らめきは人々の記憶へと深く刻まれます。 街を歩いていると、ふとした瞬間に人々の生活がつくる美しい風景に出会うことがあります。それは時にとてもささやかなものだったり、映画のように劇的なものだったり

Design&Art|デザインを覗く 〈06.日常から風景へ〉

“If a tree falls in a forest and no one is around to hear it, does it make a sound?” 「誰もいない森で木が倒れたら、音はするのか?」 この一文は、とある哲学者による問いかけです。曰く、答えはノーであると。もちろん解釈は人それぞれですが、この問いは「存在することとは、知覚されることである」というひとつの哲学的な思想を意味しています。(気になる方は“George Berkeley”で調べてみて

Design&Art|デザインを覗く 〈02.大地の音色〉

空を見上げること、大地を歩くこと。 私たちは、外の世界を自分の目で見つめ、自分の足で大地を歩くことを通じて自然と出会い、そして新たな視点を発見します。極めて当たり前のことのようですが、都市に住んでいると久しく土の上を歩いていないことにふと気付くことがあります。アスファルトの大地は固く、土の香りは街の雑踏にまみれて霞んでいきます。 フィンランドでは、街のすぐそばに森があり海があり湖があり、またそこへ通ずる自然のままの小道がたくさんあります。それらは、ただ単に人々の散歩道とし