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Design&Art|デザインを覗く 〈10.生活と風景〉

日本でも世代を超えて長く愛されている、フィンランドのデザイン。アアルト大学でデザインを学び、現在は日本とフィンランドを繋ぐデザイン活動を行っている、lumikka(ルミッカ)のおふたりが、フィンランドデザインをつくる様々な要素を探り、その魅力を紐解きます。


人の生活には、風景があります。

街を歩くこと、人と会うこと、話をすること。
木々を眺めること、空を見上げること。

そのような生きる上で欠かせない活動=生活は、人の心にさまざまな感情をもたらしてくれるもので、人間が人間らしく生きてゆくための礎ともなります。生活は感情を生み、感情の揺らめきは人々の記憶へと深く刻まれます。

街を歩いていると、ふとした瞬間に人々の生活がつくる美しい風景に出会うことがあります。それは時にとてもささやかなものだったり、映画のように劇的なものだったりもしますが、いずれにせよ、そのような風景は人間が社会的な生き物であるということ——ひとりではないということ——を実感させてくれます。

物質的な進歩が文明を生み出すように、精神的な豊かさは多様な文化を生み出します。そして、その文化の種となる生活は、「街」という雑然とした空間に潜んでいるのではないかと思うのです。

今回は、ヘルシンキの街をいつもと少し違った視点から見つめて、人々の生活から生まれる風景を覗いてみようと思います。


1.フィンランドの夏の日常

花を介したコミュニケーション
街の小さな休憩所
大きな広場の中心で

街には、年齢や性別、職業や国籍など様々な属性の人々が混在していて、そこに佇む小さなお店たちは、人々を繋ぎ、コミュニケーションのきっかけをつくる橋渡しの役割を果たしています。人と会話を交わすこと。街の中では何気ない行為ですが、実はとても価値のある時間ではないでしょうか。


2.ふとした街の一風景

レンタルサイクルが並ぶ、夏の街路
園道はランウェイのように
昼下がり、穏やかな時間の流れ
自然と建築の静かな対話

生活の様子を魅力的に演出するのは、街の自然や建築たち。人々の行為は街の一部に溶け込んで、映画のワンシーンであるかのように、風景が街に広がります。何百年もの時間を生きる自然が、建築が、私たちの日常に彩りを添えています。


3.彩り溢れる街の顔

緑のエントランス
赤いしるしの酒屋さん
青い飾りの街の老舗

街のイメージをつくるのは、そこに佇むお店たち。観光客と住民が入り混じるヘルシンキでは、大通りはもちろん、小径や路地にもかわいらしいお店が建ち並びます。彩り溢れる装いが街の空気やアイデンティティをつくりだしています。


4.人と街

ある日の港
市街地の日常

街へ出ると、何気ない生活の中に美しい風景があることに気付かされます。それは、行為を客観的に観察できるからです。想像以上に、人の毎日は「当たり前」の連続でできていて、そこに退屈さや虚無感を感じる瞬間が誰しもあるでしょう。しかし、その当たり前が続いてゆくこと、何気ない日常が存在していること、それはきっととても素敵なことなのだと思います。

人が街をつくり、同時に街は人の生活を支えています。両者は切っても切れない関係にあり、その関係性の中にこそ美しい風景は潜んでいるものです。

毎日港を歩く老夫婦や海を見ながら黄昏れる若者。市街地で働くサラリーマンや、初めて街を訪れる旅人たち。それぞれが違った目的を携えているけれど、街はその多様さのすべてを包み込んでくれる。だからこそ街の風景は一瞬たりとも同じではなく、そういう異なるものの混ざり合いによって美しい風景は生まれるのでしょう。


「人の生活には風景がある」という冒頭文。

それに続く言葉は「誰かの日常が、街に美しい風景をつくる」となりそうです。誰かにとっての当たり前も、他者の目には特別に映るもの。美しい街の風景をつくっているのは、そこで生活をする人々の日常に他なりません。

感情が人から人へと伝播しながら、街には新たな「風景」が生まれては消えてゆくのです。

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