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備忘録

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生きてるうちで印象に残ったことを残しておきます。
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備忘録5 ステファンという名の野良犬(3)タイ

備忘録5 ステファンという名の野良犬(3)タイ

ステファンはいつの間にか家に棲み着いていた野良犬だ。

お手もおかわりも全部できて、周りの人間たちは自分を「ステファン」と呼んでいるとすぐに理解し、名前を呼べばやって来る。

私はステファンのことを「フリーランスの犬」と呼んでいた。

私はフリーランスのデザイナーやジャーナリスト、アーティストたちと家をシェアしていたから、そこに棲む犬は「野良犬」ではなく、「フリーランスの犬」という意味で、そう呼ん

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備忘録4 ステファンという名の野良犬(2)タイ

備忘録4 ステファンという名の野良犬(2)タイ

ステファンは日中ほぼ寝ている。

倒れた紙相撲の力士のように二つ折りになって、冷たい床を選んで寝ている。時折、死んでるんじゃないかと思い、お腹をじっと正視して呼吸をしているのを確かめていた。

ある日、タイ人のみんなで夕飯を屋台に食べに行こうとしたとき、門をすり抜けステファンも一緒に付いて来てしまった。

家と同じ通りにある屋台までの道のりを、みんなの間をうれしそうに蛇行して歩くステファン。テーブ

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備忘録3 ステファンという名の野良犬(1)タイ

備忘録3 ステファンという名の野良犬(1)タイ

タイにいた終盤は、タウンハウスに住んでいた。
いわゆる長屋で、半地下、中二階がある三階建てをシェアして、私は二階に住んでいた。

私ともう一人の日本人女子以外は、タイ人デザイナーとアーティストのチーム、フランス人ジャーナリストがオフィスとして使用していた。

ある春先、日本へ一時帰国して戻った深夜、玄関先に明らかに野良の風貌の犬が寝ていた。

自転車のメンテナンスをしていたタイ人のデザイナーの子に

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備忘録2 幸福な夫婦とは(フランス)

備忘録2 幸福な夫婦とは(フランス)

私は夫婦というものは、いずれ冷めた関係になるのが普通だと思っていた。

私の両親がそうで、「亭主元気で留守がいい」という昔のCMの通り、いなくなればほっとするくらいなものだろうと思っていた。

今から20年近く前、私が25歳の時、ヨーロッパを3週間ほど旅した。

建前ではドイツに留学している従姉に会いに行くのが目的だったが、本当のところは付き合っていた人に振られた傷心旅行だった。同時期にバイトも頼

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備忘録1 タイのファンシータクシー

備忘録1 タイのファンシータクシー

たまにふと思い出す出来事がある。

2007年から3年ほどタイのバンコクに住んでいた頃、タイ人の友人とタクシーに乗ったときのことを。時間帯やどこから乗ってどこへ向かっていたかは覚えていないが、乗りこんだ瞬間に「(やってしまった!?)」と心の中でつぶやいたのは覚えている。

その車内はシートと窓ガラス以外、天井からバックミラーまでピンクの小花柄の布と白いレースで覆われていたからだ。

多くのタイのタ

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