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くまの床屋さん

くまの床屋さん、はじまるよ。
開店は朝の8時。くまさんの朝は早いのです。
くまさん、くまさん。いらっしゃいな。
ここで待っているのは熟練のくま理容師さん。くまカットならなんでもお手のもの。

さあ、看板を出そう。

〈メニュー〉
くまカット    500えん
こぐまカット    300えん
※シャンプー、ブローはりょうきんいただきません

ひとりめのご来店。けむくらじゃらのくまさんがやってきました。ここの常連のくまさんです。

「暑いからさっぱりめにしてくれ」

コームで毛を上にむかってのばして、
はさみでチョキチョキ、ていねいにカットしていきます。

「くまさん、大分のびましたねぇ」
「ここんところ忙しがったからな。毛がからまって大変だったんだ」
「おしごと忙しいんですね」
「設計の仕事をやってるんだが、リフォームする家がおおいな。今からふゆごもりの準備しとかないと」
「そういえばそうですね。今年の冬もきびしくなりますかねぇ」

話しているあいだも、はさみはチョキチョキ。たえ間なくカットしていきます。

フローリングの床には、くまさんの黒い毛が。チョキチョキ。どんどん毛玉、いや毛の海ができていきます。

くまさん、くまさん。あっという間にけむくらじゃらからさっぱりに。

「ああ、軽くなったよ。今日もありがとう」

500円はらって、くまさん出ていきます。夏の日差しがふりそそぎます。くまさんの毛先はこがね色です。


さあ、またお店のとびらが開いたよ。
つづいてのご来店は、くまポシェットをななめがけしたこぐまさんと、その付きそいのくまおかあさんです。

「さあ、今日はどういたしましょう」
くまポシェットのこぐまさんが緊張したおももちでかがみの前の椅子に座ります。
そのかわりに、くまおかあさんが答えます。
「この子、癖っ毛なのでまとまりのいい感じにはできるかしら」
「もちろんです。かしこまりました」

そこは熟練のくま理容師さん。こぐまさんをシャンプー台にお連れすると、慣れた手つきでシャンプーしていきます。

ゴシゴシゴシゴシ
「かゆいところはございませんかぁ」
「はぁい」

じつはこのシャンプー、癖っ毛をととのえる作用があるのです。
これだけではなく、くま理容師さんがくまの毛の悩みに合わせてオリジナルにブレンドしたシャンプーがたくさん並んでいます。
毛の具合から判断して、くまさんひとりひとりに合わせてシャンプーしていきます。
もちろん、料金はいただきません。

毛がととのったこぐまさん、今度はカットです。
癖っ毛がおさまりよくなるようていねいにカットしていきます。

フローリングの床には、こぐまさんの細くて薄茶の毛が。チョキチョキ。どんどん毛玉、いや毛の海ができていきます。

こぐまさん、こぐまさん。あっという間におさまりのいい癖っ毛に。

「まぁ、かわいい。ありがとうございます」
「おじさん、ありがとう!」

くまおかあさんぺこぺこ。こぐまさん、リラックスしてえがおで、くまポシェットから300円はらって出ていきます。夏の日差しがふりそそぎます。こぐまさんの毛先はやっぱりこがね色です。


日が少しかげってきました。
つづいてのご来店は、もうすぐ結婚式をひかえた花嫁くまさん。

「いろんなところ探したけれど、やっぱりここがいいの」

熟練のくま理容師さんへの信頼はあついです。

さあ、期待にこたえなくては。くま理容師さん、花嫁くまさんの毛もていねいにカットしていきます。

長さは変えず、段をいれてゴージャスにアレンジできるように。

「式場がすごくすてきなの。海がみえてね、すぐにここにしようって決めたの」
「へぇ。当日は晴れるといいですね」
「うん。でもわたし雨でもかまわないの。すごく音響がいいみたいだから、きっと雨の音もすてきに聞こえるわよ」
「じゃあ、雨がふってもアレンジがうまくいくようなカットにしますね」
「うん。ありがとう」

花嫁くまさんは鏡にうつった自分と、くま理容師さんの手先をみていたら、当日はふたつの耳に黄色いリボンをつけようと思いました。

なぜだか分からないけど、そう思ったのです。すてきなイメージがわいてくるのも、くまカットの魔法かもしれません。

フローリングの床には、花嫁くまさんの長い濃い茶色の毛が。チョキチョキ。どんどん毛玉、いや毛の海ができていきます。

最後はくま理容師さん、ヘアアイロンを使ってどんどんカールしていきます。

くまさん、くまさん。あっという間にゴージャスくまさんに。

「ありがとう。すてきだわ。このあとは髪飾りのおみせに寄ろうかしら」

花嫁くまさん、るんるんで500円はらってでていきます。外は優しい夏の夕陽。花嫁くまさんの毛先はきらきらこがね色です。

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