「母さんの風」ー詩ー

母さんの　うちわ煽ぎ（あおぎ）は
夜の　闇のなかで
ボクの寝息が　聞こえるまで
パタパサさと　続く

うちわの　風の中に
母さんが　いる
蒸し暑い夜
ボクを　柔らかな風で
包んでくれた
母さんの　痩せた白い指がある

枕元の　蚊取り線香の煙は
母さんの風に　乗って　
夏の夜の　自分の出番を
楽しんでいるように
ユルユルと　昇っていく

母さんは子守歌を
口ずさむ　
その　調べは　悲し気で
母さんが　居なくなっても
僕の耳の　奥の奥で
蚊の　羽音のように
小さく　響いている

電化の時代が　来ても
ボクの　心には
母さんの　風が吹いている
それは　扇風機やクーラーでは　
どうしても　作り出せない　
やわらかで　取り戻せない　特別な風だ

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