フィスィ

「なぁ。なぁぁぁあ」
猫のフィスィが前足を頭に当てて起こして来る。
ルナはぼんやりとベッドの中で目を覚ました。
なんだか寒い。身体が冷えていたみたいだ。
ルナはそのまま掛布団をもう一度体に掛け直した。布団の上でフィスィがゴロゴロと音を立てて丸くなりだした。
少し重くなった掛布団を自分の胸にかけながら、ルナはもう一度目を閉じる。
なんだか不思議な気分だ。何かの夢を見ていた気がする。
なんだろう。
ルナは目を閉じながら、何かを思い出そうとする。
少年。少年が歩いていた。そう。赤い髪の少年。細身でスラっとした体型で大きな緑の丘を一緒に歩いていた。
その少年は、時間が経つと空へと飛んで行ってしまったのだ。
ルナは一人取り残されて、ぼんやりと青い空を眺めていた。でも、白い雲の上まで行くと、その少年は手を振ってくれた。
かなり遠くの方まで飛んでいたのに、少年がこちらまで手を振ってくれたのがわかったのだ。
一体なぜわかったのかはわからないが、少年の姿を間近で見たかのように鮮明にその姿をルナは覚えていた。


ドドドドドドドドド。

何やら階段を上がって来る音が聞こえてきた。
ルナはその音によって夢の世界から一瞬にして元の部屋の空間に引き戻されて行った。

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