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詩「陽だまりの記憶」

その毛糸の編み物には
黄色を選んだ瞳と紡いだ手とがあった
知らず知らずの内に包まれていた
陽だまりの様な眼差しに

泣いて泣いた試合の帰り
ベンチで待っていてくれたあの人
ホッとしたら
お腹が空いていたことに気付いた

沈む夕日にあんなに心がふるえたのは
隣にいたのが君だったから
宵闇に紛れて
繋いだ手を引き寄せたかった

てがみ テガミ 
いろんな手紙があったけど
あの時 あの字で綴られた 
あの言葉ほど 
あったかいものはなかった

腕の中にすっぽり収まる
ちいさな頭が揺れるたび
柔らかな産毛がほわほわと
私のほおを撫でていった

隣に誰もいないのだけど
手を伸ばすとその先で
誰かがキュッと手をつないでくれている
そんな感覚になる時がある

陽だまりに身を寄せる子猫のように
ひざまくらに頭を預けて
意識が落ちる間際まで
片耳で聴いていた家族の会話

あの子と飛ばした綿毛の行方
ふわりフワリと風に乗って
気持ちも一緒に舞い上がり
陽差しに包まれ消えていった

君は陽だまりの中で生まれて
陽だまりの中で死んでいく
生きとし生けるもの達へ
神様がくれた優しい約束

だから忘れない
忘れないでいたい
たしかにあった温もりを
ずっと灯していくことを





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