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短編小説「お笑いジャッジマン」

僕は売れないお笑い芸人である。

とあるお笑い劇場を中心に活動をしている。

その劇場は若手メインでまだ売れてない芸人が集う。

今日もいつも通り、自分のネタを披露するため、舞台袖へと向かう。

芸人が舞台に立ってる時、舞台袖には順番待ちをする芸人やスタッフなどがいるが、その日は普段見かけない男がいた。

白のタキシード姿で、その手にはマルとバツが書かれたクイズプレートを持っている。その人の芸風なのだろうか。

不思議に思いつつも、新人なのだと理解し、いつも通り舞台でネタをした。

舞台袖にはけると、まだタキシード姿の男がいた。

すると突然、僕に向かってクイズプレートのバツ(❌)を掲げてきた。

なんだこの判定は。ネタの判定をされたのか?

今日はウケがいつもより多かった。
ただの僻みに違いないし、顔も知らない人に評価される筋合いはない。

変わった新人だなと思い、その日は無視するだけだった。

次の日、同じように午後からの公演に出演した。

今日も舞台袖にはクイズプレートを持ったタキシード姿の男がいた。
(以下、ジャッジマンと呼ぶ)

ネタを終え、舞台袖にはけると、今日のジャッジはマル(⭕️)だった。

だが、その日はウケが少なかった。

ジャッジマンのジャッジとお客さんのウケが合致してないのである。

この人は僕の何をジャッジしてるのか。
ますます謎が深まるばかりであるが、何も触れないことにした。

次の日はいつもと違う劇場に出演することになっていた。
いつも出演する若手中心の劇場とは違い、ベテランの人もいて、お笑いの聖地と言える劇場である。

そしていざ本番へと向かう。

舞台袖を見るがジャッジマンの姿はなく、こころなしか安心する。

そして、普段やっているいつものネタ2本を披露。

しかし、ここで違和感を感じる。

いつも出演している劇場とは違い、アウェーということもあり、お客さんの反応がいつもと真反対なのである。

ふとお笑いジャッジマンのことが頭によぎる。

そしてあることに気づく。

舞台袖のジャッジマンがマル(⭕️)と判定したネタはウケて、バツ(❌)と判定したネタはウケてないのである。

ここでようやく、ジャッジマンの判定がバチっと決まる。

ジャッジマンはお笑いの聖地でウケるかどうかをジャッジしていたのだろうか。

ということは、いつもの劇場で起きる笑いは何だったのか?
もしや、まだ売れてもいない芸人の熱烈なファンによる空気読みだったのか?

ジャッジマンをバカにしていたが、ネタづくりに活かせそうだ。

その日から、ホームの劇場では、新ネタをたくさん披露し、ネタを作っては舞台袖のジャッジマンに判定してもらう日々が続いた。

そして、ネタの精度が上がり、お笑いの本場の劇場に出させていただく機会も増えた。

そんなとある日。

いつものように、ホームの小劇場でネタを披露しようと、舞台袖に向かうが、ジャッジマンの姿がない。

しかし、今の自分にはジャッジマンがいなくても、やっていける気がした。

ジャッジマンによってお笑いのセンスが磨かれたのである。

ただ、ジャッジマンは何者なのかが気になる。

舞台関係者にジャッジマンについて聞き回ってみることにした。

「舞台袖にいたタキシードの姿の人、最近来てないですよね?」

「ん?舞台袖にいたタキシード姿の人?そんな芸人いたっけ?僕は知らないなぁ、、、。」

「え、知らないですか?マルバツのクイズプレート持った人ですよ?」

「知らないなぁ」

複数の人にジャッジマンについて聞き回ったが、全員同じ反応だった。

僕は幻を見ていたのだろうか。

急に鳥肌が立ってきた。




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