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「アイスレモンコーヒーはいかが?」〜つなぐという役割〜


近所のコーヒー豆屋さんで、テイクアウトの淹れたてコーヒーが売られている。スタバの半分くらいの価格だから、「週末のごほうびに」と軽い気持ちで、ついつい買ってしまう。

冬のあいだは、ホットコーヒーの1択。お店の近くにある、線路沿いの公園へ行くときに買っていた。電車を見たがる子どもに付き添い、20~30分に1往復しか来ない電車を待つときの、最強のお供だった。これのおかげで、親は極寒のなか、6本以上の電車をごきげんに見送ることができた。



春先になり、暖かい日が続いた頃だろうか。そのお店のテイクアウトに、新しいメニューが現れた。

その名も、アイスレモンコーヒー

レモンもコーヒーも好きなのだ、気にならないわけがない。でも、その日は買わなかった。だって、間違いなくおいしいコーヒーを飲みたい気分だったから。

好きなもの同士を組み合わせても、それがもっと好きなものに変身するとは限らない。これは「混ぜるなキケン」の方じゃない?

お店をあとにしてから夫に話をすると、夫も気になっていたようだ。「あれ、どんな味なんだろうね」なんて夫と笑いながら、わたしたちはいつものコーヒーを飲んでいた。



それから、数週間後。暑い日がやってきた。冷たい物が飲みたくなり、夫がついにアイスレモンコーヒーを注文。「ふたりで失敗する必要はないよね」と思いながら、わたしはアイスカフェオレにした。もちろん、夫のアイスレモンコーヒーの味見はさせてもらう予定だ。


ところがどっこい、このアイスレモンコーヒーがとってもおいしい!

コーヒーだけど、コーヒーでない味がする。それが悪くないどころか、クセになる。

この味、おそらくお店で売っているレモネード用のはちみつ漬けレモンを使用しているのだろう。はちみつの絶妙な甘みが、さわやかなレモンの酸味とコーヒーの苦みをつないでくれている(とわたしは思っている)。ただの輪切りレモンをコーヒーに入れただけでは、こんなに美味しくはなかったはずだ。

「わたしもこっちにすればよかった!」と思ったけど、悔しいから胸に秘めたまま、たくさん味見させてもらった。

以降、暖かい日にこのお店で飲み物を買うときには、わたしがアイスレモンコーヒーを注文している。すっかりファンになってしまったのだ。

わたしの「推し」と言ってもいいかもしれない。推し色は、黄色と黒。まるで蜂ではないか。子どもに言わせれば、踏切に違いないけど。



「レモンとコーヒーは合わない」という当初の予想は、見事にはずれた。

ふたつをつなぐものがあれば、強い個性を持つもの同士が、手を取り合うこともできるようだ。今回は商品の名前にすら載らなかったものが、その役割を果たしていた。まさに、影の立役者。

裏方でさりげなく間を取り持ってくれるものに、なんらかの優しさと懐の深さを勝手に感じてしまう。かっこいいじゃないか。

そんな存在もいいなぁと、憧れを抱いてしまった。わたしは、なにとなにを、どうつなぐことができるだろうか。まだ手探りの途中だ。

そんなだから、この夏のあいだ、アイスレモンコーヒーに何度もお世話になる予感がしている。


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