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【ギフトシネマ会員インタビューvol.8】南光開斗さま

途上国の子ども達に映画を届けるNPO法人World Theater Project(以下、WTP)は、団体発足以来、多くの方々に支えられ活動を続けてまいりました。どのような方達がどのような想いで支えてくださっているのか。 活動を支えてくださる大きな存在である「ギフトシネマ会員」の皆さまに、お話を伺っていければと思います。
第8回目のゲストは、南光開斗(なんこう・かいと)くん。高校生の時に『映画の妖精 フィルとムー』を上映したいと問合せをくれた時からWTPと繋がってくれた南光くん。今では大学生となり、ご家族の闘病や自身の不登校などの経験をもとに共創型情報プラットフォーム”Infora(インフォラ)”の開設に向け奔走しています。インタビュアーが涙した南光くんの想い、そして夢とは?

(聞き手:菊地夏美、取材日:2023年11月14日)

つくりたかったのは優しさの映画祭。

―本日はインタビューにご協力くださりありがとうございます。まずは南光くんとWTPのはじめての出会いについてお聞きしたいです。

WTPのことは高校1年生の時から知っていて、めちゃくちゃ面白い団体さんだなと思っていたんです。すぐに関わりたいと思ったのですがなかなかそういう機会はなくて、どこかで繋がる機会がないかと模索していました。そして初めて直接お話できたのが、僕が生徒会で上映祭を企画している時にメールを送った時でした。

映画祭のコンセプト・開催目的として“優しさの映画祭”というものを掲げていて、他にも野外上映イベントはたくさんありますが、そういうものとは違うものを目指していました。このコンセプトは、WTPさんの理念に通ずるところがあると思ったし、僕の中でずっとWTPさんと何か関われることはないかなと思っていたので、上映祭の企画を生徒会に提案した時に、『映画の妖精 フィルとムー』の上映もしたいと提案しました。

上映祭は、企業の方々に機材の提供や音響の協力をお願いして、当日は高校生や地域の方など300名くらいの方々が集まってくれて、無事に3つの作品を上映することができました。あいにくの雨模様でしたが、『フィルとムー』を映し出す前にちょうど雨が止んで虹が2つかかったんです!無事に野外で上映することができて、最後の作品は星空のもと映画を観て終わるみたいな感じで、もう奇跡の映画祭でした!

上映会の最後に集まっていただいたみなさまとの一枚。

―とても感動的ですね!高校生であの企画をして実施するのは素晴らしいと思います。

あの規模のプロジェクトをするのは初でしたし、高校生でやはりボロがでたり、いっぱい抜けているところもあったり、礼儀やビジネスの上での常識を知らなかったりなど、数えればキリがないくらいダメなところがたくさんあったのですが、それを大人の方が協力してくださって無事に開催することができました。あの経験のおかげで、色々な状況を知って、大学に入って、今何か活動しようと思った時にスムーズに進めることができるのかなと、経験しているからこそできることがいっぱいあると感じています。

高校生の時には生徒会長を務めていた南光くん

人が何か困難に陥ったときの支えに。
必要なものが必要としている人に届くように。

―大事な経験だったんですね。そんな経験を経て、南光くんは、現在新しく取り組みを始動させているスーパー大学生だとお聞きしました。その活動や想いについてぜひ教えてください。

まずは、背景的なところからお話できればと思うんですけど。僕が小学校5年生の頃に母がALS(筋萎縮性側索硬化症)という全身の筋肉が動かなくなる難病を患いました。そして僕もヤングケアラーとして母を介護していた時期があります。その後、中学生の時に母の介護の忙しさではなく、自分の自律神経が乱れて病気になってしまい、不登校を経験しました。

そういう時にとても感じたのは、人が困難に陥った時にそれを支援する社会資源はたくさんあると思うのですが、資源の情報ってなかなか手に入らない、必要な人に届かないということでした。この経験から、公的制度以外の社会資源の情報が必要としている人に届くように、あらゆる生活課題に対する社会資源の共創型情報プラットフォーム“Infora(インフォラ)”というものをつくろうと今取り組んでいます。

―社会資源を届けるプラットフォームですか。それではまず、“Infora”の由来について教えてください!

“Infora”は、Information platform as infrastructureから名づけた造語なのですが、「インフラとしての情報基盤」という意味を込めています。人が困難に陥った時にその情報を知ることができるか否かということは、命だったり、それからの生き方、生きがい、その人の根本に関わるくらい本当に重要なことです。そのために情報を提供する情報基盤が整っているのかというのがインフラと同じくらいに重要なことだと思っています。
なので、インフラとしての情報プラットフォームができてほしい、それを政府や国がしないのであれば、自分たちでつくってしまおうという思いから、“Infora”と名づけました。

―“Infora”にはそういう想いが込められているんですね。社会資源とは具体的にどういうものでしょうか。

社会資源って本当に幅広い概念なんですが、福祉の業界では、あらゆる人の生活をより豊かにするために使えるあらゆる資源のことを社会資源と定義付けています。
具体的な例を一つあげると、母のようなALS患者は、体が動かないし、喋ることもできなくなります。最終的に全身の筋力が落ちる中、比較的筋力が残るのは眼球の筋肉と言われています。なので、目の視線を使ってコンピューターを入力していく、視線入力装置というテクノロジーがあるのですが、それを使えるか使えないかでコミュニケーションのしやすさが全然違います。装置を使うには事前のルール決めや練習が必要になるのですが、母の場合は、この視線入力装置の存在を知るのが遅くなってしまい、眼球の力がちょっと弱くなってきているタイミングだったのであまり使うことができませんでした。

僕が特に重視したい、かつ情報がなかなか手にはいらないと思うのは、テクノロジーやNPOが実施している非営利のサービス、当事者のコミュニティ、そして人の生き方やストーリーなどの抽象的なものだったり、あるいは政府がやっていないような民間のものなど、人が困難に陥った時に役立つものです。“Infora”ではそういった社会資源を取り扱おうとしています。

―南光くんが取り組みたいと思う背景には、どのような想いがあるのでしょうか。

ALS以外の病気や障害、問題など、自分たちが何か大きな困難にぶつかった時に、その当事者やその周りの人たちは課題を乗り越えることにすごく大変で必死で、いっぱいいっぱいになって、外をみたり、先をみたり、あるいは情報を調べたりする余裕がないということがあると思っています。

そしてもう一つ、公的制度以外のテクノロジーやサービス、コミュニティなどの社会資源の情報はなかなかまとまっていない現状があります。例えば、ALS患者に対して利用可能な社会資源の情報が一括されているページもなく、病院の情報や使える介護保険はこれですというような公的制度の社会資源の情報だけが掲載されています。ALS患者にとって民間の力で生まれた社会資源は絶対必要なのに、そのエッセンシャルと言っても過言ではない情報がまとまっていないんです。ALSに関する情報だけではなくて、病気や社会問題など情報がまとまっていないトピックはたくさんあると思っています。

一方で、開設を進めていく中で政府公認なのか否か、品質を担保できるものであるのか、どこか一企業のサービスだけを取り上げて他社の営利サービスは取り上げていないなどの不公平にならないようになど、色々と問題や課題は立ちはだかってくると思いますが、全部がまとまったプラットフォームが絶対に必要だと思うので、一個一個課題を解決しながら進めていきたいです。

プレゼン大会にて"Infora"の事業案をプレゼンし優勝した南光くん

生きる、生きたいと思えるかどうか。
大事にしたいのは「心の煌めき」。

―南光くんの強い想いがひしひしと伝わってきます。そんな南光くんがWTPに支援してくださる理由を伺ってもいいでしょうか。

一番大きな理由は、WTPさんの活動や理念に共感しているということがあると思います。

僕の造語なのですが、「心の煌めき」を大事にしたいなと思っています。「心の煌めき」というのは、趣味でも夢でも希望でも、あるいはちょっとした時の感動など、とにかく心が光る瞬間です。

ALSを患っている母と一緒にいた経験からなのですが。
生きられるかどうかというのも重要だと思いますが、生きることができた上で、その人生を生きたいと思えるかどうかということがとても重要だなと思っています。特に母のようなALSの患者さんは本当に毎日のように自分の中で葛藤しながら考えることだと思うんです。例えば人工呼吸器をつければ、かなり長い期間生きることは可能になるけど、人のケアにもっと頼らないといけなくなったり、自分には何が生きる目的なのだろうか、それって生きる価値があるのかと考える方がいっぱいいて、悩んだ上で何かを見出して生きる決断をされる方もいます。母のことがあってそういうことを身近で感じてきて、僕にとっても生きる、生きたいと思えるかどうかっていう「心の煌めき」がとても大きく思えています。

―心の煌めき・・・。

WTPさんの映画を上映をするということ自体が、「心の煌めき」の一つの瞬間ですし、映画が観られるというのはすごく幸せなことだと思います。その上で、いろんな生き方や具体的な仕事、こういう生き方、こういう考え方とか、夢、ちょっとした未来、そういうものを子どもたちにみてもらって、それが自分にとっての目標みたいな形になったり、指針みたいな形になる。それって長期的な「心の煌めき」になるなと思っていて、WTPさんの活動って素敵だなと思いました。

そしてもう一つ、「心の煌めき」も大事な一方で、生きていくための選択肢としての情報ってめちゃくちゃ大事だと思うんです。僕たちの場合はいろんな情報が手に入らなかったですが、WTPさんの「夢の種まき」として映画という媒体を通して、生き方とか、夢とか、職業とかそういう情報を選択肢としてみんなにみせるというのは、とても可能性が広がることだと思っています。強要するのでもなくて、あくまでもそれを選択肢としていろんなものを観られるというのはとても大きいなと思うし、大事だなと思います。

―私たちの活動をこんなに解像度高く捉えていただいてとても嬉しいです(泣)
最後に、南光くんの今の夢はなんでしょう?

今の夢は職業ではなくて、こういう社会を実現したいなという想いなのですが、
「誰もが心の煌めきを持って生きることができる社会」を実現したいなと思います。

今取り組んでいる“Infora”は情報不足という課題を解決しようとしていますが、それも要は「心の煌めき」を持って生きるために最低限必要な基盤だと思っています。もしかしたら、その課題自体を根本から解決するのは難しい場合も多いですが、少なくともその人が1日生きていく中で、1日のどこかで心が光る瞬間みたいなものが毎日あればいいなと思っていて、そういう煌めきを誰もがどのような状況でも持てる社会になってほしいです。そのために必要な基盤を整えたり、直接心の煌めきを生み出すような企画やサービスをつくったり、そのために人と関わったりできるといいなと思います。

「心の煌めき」というのは、生きがいでもあるし、そういう恒常的なものではなくて単発的な感動もそうだと思います。映画を観た時の感動とか、勉強している時に親がおむすびを持ってきてくれた時の感動とか、あとは夢や希望、趣味をしている時の喜びや楽しさみたいなものをさしていて、心がすごくキラキラしている状態、光というよりは輝きだと思っていて、「心の煌めき」と表現しています。

そういうものが自分にとって生きる力だなと思うし、それがない人生は嫌だな、何のために生きているんだろうって思ってしまうくらい一番大事にしたいと思っています。そして、それは他の人にとっても必要なことなのかなと思っているので、誰もが「心の煌めき」を持てる社会を実現したいです。

KAITO NANKO
法政大学現代福祉学部1年生。
「あらゆる生活課題における、社会資源に関する情報不足の解消」を目標に、共創型情報プラットフォーム”Infora” の開設を目指し準備を進めている。
おすすめの映画でもあり、好きな映画でもある思い出の映画は、『ナイト ミュージアム』。


12月3日(日)に南光さんをゲストにお迎えして、CINEMA AID(シネマエイド)を開催いたします。共創型情報プラットフォーム開設にかける想い、これまでのご経験などをお話いただきます。講演タイトルは「社会資源の情報不足~ALSの母と僕が繋がれなかったケアリソース~」。
当日はテーマを、ALS(筋萎縮性側索硬化症)として、ドキュメンタリー映画『あした生きるという旅』(監督:内田英恵)の上映もいたします。ご興味ある方、お時間ある方はぜひご参加ください。


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