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【ギフトシネマ会員インタビューvol.10】小池 孝さま

途上国の子ども達に映画を届けるNPO法人World Theater Project(以下、WTP)は、団体発足以来、多くの方々に支えられ活動を続けてまいりました。どのような方達がどのような想いで支えてくださっているのか。 活動を支えてくださる大きな存在である「ギフトシネマ会員」の皆さまに、お話を伺っていければと思います。
第10回目のゲストは、小池 孝(こいけ・たかし)さん。ミニシアターに置かれていたWTPのチラシをご覧になって会員になってくださった小池さん。小池さんがご寄付くださる背景にはどのような想いがあるのか、インタビュアーが迫りました。

(聞き手:飯森美貴、取材日:2023年11月15日)

教える仕事を通じてできること。

―本日はインタビューにご協力くださりありがとうございます。小池さんは高校で校長先生をされていると伺いました。

現在65歳なのですが、校長の仕事は60歳で定年のところ62歳まで延長して勤めまして、その後は転職して、現在もそこで働いています。

―転職されたのですね。ちなみに校長先生になる前は高校の教員をされていたかと思うのですが、科目は何を教えられていたのでしょう?

工業高校で、工業を教えていました。専門は機械なんですけどね。内容としては鉄であったり金属の材料のことであったり、いわゆる機械設計ですね、力学的なこととか。それから物理的な理論を入れて構造、あるいは製図とか。実習で実際に工作機械を作ってなにかを加工したりとか、そういったことが多いですね。

―文系の私にとっては、今のお話を聞いただけでも、とっても難しそうな科目という印象です。転職された後、今はどんなお仕事をされているのでしょう?

教員とは全然違う分野に挑戦してみようと思いまして、実は今、組員なんです。

―え…、組員なんですか。(ゴクリ)

はい。でも、土木建築業、(株)○○組というような小さなゼネコンです(笑)。土木建築というのは今までの教員とは全く違う分野ではありますが、業務として担当しているのは社員教育です。

―なるほど!やはり教職に通ずる部分があるのですね。

有り難いことに通ずる部分はありますね。土木は若手がなかなか集まりづらい業界なのです。そこで社会人野球の選手として活躍してくれるような大学生をスカウトして、卒業後社員として働いてくれる子達を育てています。学生時代に野球を一生懸命やってきた選手たちというのは、理数系の科目に対して苦手意識がある子が多いんですね。そこで、会社のなかで勉強と仕事と野球を両立していくためのサポートをするような仕事をしています。

チラシに書かれていたメッセージに惹かれた。
何かの形で応援したいと、すぐに思えた。

―会社のなかの学校の先生なのですね。では、そんな小池さんとのWTPとの出逢いのきっかけは?

神戸はとても映画館が多い地域なんです。三宮という地域を中心に、そこだけでも歩いて5分もするだけで大きな映画館が3館、ミニシアターも3館。東京よりも多いですよね。
6館もの映画館に囲まれているので観たい映画がたくさんあり、とっても忙しいんです(笑)

―映画を観るのは小さい頃からお好きだったのですか?

小さい頃はそうでもなかったですね。中学か高校の学生時代に『卒業』という映画を観まして。その時に使われた音楽がSimon & Garfunkel。当時の映画館って入替制ではなかったので、一日に何回も観ましたね。すごくハマってしまって。結局朝から晩までずっと同じ作品を観て映画館にいました。その当時は学生ですから、日常が忙しかったですけれども、大学生、大人になるにつれて”映画館で観る映画の良さ”というものに惹かれました。
そして神戸のパルシネマしんこうえんさん、こちらでWTPのチラシを見つけました。割とあっさりしたチラシを(笑)

―あっさりしたチラシにもご興味を持って下さったのですね(涙)
具体的にはなにが小池さんを惹きつけたのでしょうか。

学生の映画サークルの団体なのかなと思って、あまり気にもとめていなかったのですが。
”映画を観ることが出来ない地域に映画を運ぶんだ”というのを観て。もうこれは、何かの形で応援したいなと、すぐに思いました。それがきっかけですね。

たった一度でも「先生!」と
向き合ってくれる瞬間の喜びのために。

―子ども達と接する教員という立場にいらっしゃる境遇と、映画を子どもたちに届けたいという想いが繋がったような出逢いだったのですね。

団体からの色々な報告で子ども達が吸い込まれるようにスクリーンを観ている写真があるじゃないですか。それから、悲しそうな顔をしていたり、弾けるような笑顔の場合も。あれを毎回見るだけで、やっぱりなんとか応援したいという気持ちが湧いてきますね。エネルギーが頂けるくらい。

当時チラシにも書いてありましたけど、やっぱり食糧支援とか医療支援ももちろん大事ですよ。けれども、やっぱり夢を描くきっかけというのは、特に子どもたちにとっては非常に大事なことだと思うので、ここにわずかでも力添えできたらなと思いました。

―普段学校で、同じような表情の学生さんと出会う機会も多かったのではないでしょうか。

教員というのはね、”信じるものはだまされる”という人種なんですよ。こういう風にやってこれだけやったら、こんな風になってくれるだろうとか、色々な想いがあって。あるいは信頼関係も出来たと思っていても、なかなかそういう訳にはいかないこともある。
悲しい想いをすることや、裏切られることもある。けれども、たった1度でも「先生!」と向き合ってくれたり、笑ってくれたり、良い結果が出たり。
その瞬間に、それまでのよくないことは消えちゃうんですね。

そういう人種なので(笑) WTPの活動の中で見る子どもたちのあの笑顔、真剣なまなざしは応援せざるを得ないと思いましたね。

―ありがとうございます(泣)なかでも、WTPの中でなにか印象的な活動やイベントはありますか?

実は応援しようと思ったもうひとつのきっかけは、代表の教来石さん。なんか助けなあかんなと思うじゃないですか(笑)素晴らしいキャラクター、人格ですよね。強い想いがあって、周りに人が寄ってきてくれるというのは彼女の人望だと思います。みんな寄り添って前に進んでいく、方向を間違えそうになったらお互いに修正しあって。まとまりながら、ずっと前に進んでいく。そういう魅力がありますよね。

―本人が聞いたら喜びます(笑) ありがとうございます。

今まで1回だけしか東京のイベントには足を運んだことがないのですが、そのイベントに行ったのはやっぱり直接教来石さんにお会いしてみたいと思って、それが一番の理由で。何の躊躇もせず、夜行バスの切符を買っていましたね(笑)

―いつか関西、神戸にもイベントでお伺いしたいです!

良い映画館もたくさんありますので、是非。あれ以来映画館ではWTPのチラシは見ていないけれども、映画が本当に好きな人たちが映画館に集まっていますし、映画館ではチラシ棚もよく見ますからね。映画館にチラシを置くというのは、広報のひとつとして良いと思いますよ。

小池さんが神戸から足を運んでくださったWTP7周年記念イベント
(後方1列目右から4番目が小池さん)


年間130本の映画を観る。
何回観ても違う発見があるのが映画。

―映画を観るので忙しそうな小池さんですが、はじめて映画館で観た映画は先ほどお話に出てきた『卒業』ですか?

記憶に残っている限りだとそうですね。今でも映画館で上映する際は必ず観に行きますね。無理してでも観たいと思う映画のひとつです。最後にウェディングドレスを着た彼女を奪って、路線バスに逃げ込むんです。通路の一番うしろにふたりが座って。逃げているけれども、これからふたりは楽しい。そこから、カメラアングルが前にぶわーっと来て、お客さんたちがふたりを通路から身を乗り出して振り返っているんですが、昼間の路線バスなのでおじいちゃんとおばあちゃんが不思議そうに、幸せそうに、なんとも言えない表情で見ている。そのシーンが映画に引き込まれた原点です。あとは、先ほども申し上げましたが音楽がSimon & Garfunkelで。この映画ですっかりSimon & Garfunkelのファンにもなりました。

―観てみます!そんな小池さんのこれからの夢は何ですか?

今がまだ実は、忙しいんです。遊びが(笑)映画のほかにも、スキーが趣味なんですよ。ライフワークと言って良いくらい。なので、冬が来たら映画は封印しなければいけないんです(笑)
休みが出来たら長野あたりのスキー場へ。神戸から移動時間も結構かかりますからね。雪が降るとスキー。なので、映画は4月くらいから復活して。今年も今週で130本くらい映画は観ていますね。

―130本!すごい記録ですね。

週に5-8本。1日2本でも少ないくらい。月曜から金曜までフルタイム勤務ではあるので、これからの夢というのは休みをどう使うか、いかに趣味を充実させて楽しむかです(笑)
ホラーはあまり観ないですが、それ以外はどんな映画も観ます。『ローマの休日』は是非映画館で観てください!何回観ても違う発見がありますからね。思い込みでこんなシーンがあったなと思うけど、実はなかったり。自分の経験がそうさせるんでしょうね。

―カンボジアや途上国では同じ映画を繰り返し観る機会というのはなかなかないので、もし同じ映画を何回か観たら、どのような心の成長があるのか団体としても気になっています。

これから良い時代が来れば、きっと何十年か先に、自身の子どもや孫が自分が子どもの頃に観た映画を観るなんて日が来たら、その時にどんな想いが湧き上がるのかなと思うと、やっぱり素晴らしい活動をされている団体だなと思います。

―そんな映画ファンの小池さんイチオシの映画は何でしょうか。


『ニュー・シネマ・パラダイス』の完全版。結構長い時間のカットシーンが含まれているんです。もともと大好きで何回も観ているけど、完全版を観たときに、「あ、ニュー、ニューシネマパラダイス!」と思いました。完全版は違う『ニュー・シネマ・パラダイス』で、完全版のほうが好みでしたね。映画にそそぐ愛情が沁み込んでいるトトの表情が素晴らしいですね。あとは同じ監督の『海の上のピアニスト』これも素晴らしいですね。
子どもたちにおすすめする映画も考えたんですけど、これが結構難しい。『SING/シング』なんかは良いですね。夢があって、辛いことを乗り越えていく経験も学べますし。『ディリリとパリの時間旅行』もおすすめです。画がカラフルでキレイだし、ちょっと考えさせられる内容なので。是非作品獲得のご参考に。

―では、最後に今後団体に期待することはありますか。


12月にALS(筋萎縮性側索硬化症)の映画のイベントを東京で開催されますよね。是非観たいなと思いましたが、残念ながらちょっと遠いので。そういう活動をこれから広げられたら良いのかなと思います。
あと、コロナの時もちょっと感じましたが、日本でも映画を観られていない子どもたちもいますよね。映画館がない地域に住んでいる場合ももちろんですし、経済的な事情や家族的な事情を抱えている子も多いです。子ども達が希望を持てない生活を送っているのは、途上国ではなく日本でも、悲しいことに起きているのが現状です。貧富の格差が広がっていることで、昔よりも増えてしまったかも知れない。そういうところへ、食べ物ではなくて、映画を支援して子どもたちの明日へのエネルギーに繋げていって欲しいです。

―先生からありがたいお話を伺っている気持ちになりました(泣)
本日はどうもありがとうございました!


TAKASHI KOIKE
元高校教員。校長まで勤め上げる。
現在はゼネコンにて社員教育を担当し、若手社員のサポートに従事。
今年のおすすめ作品は、『BAD LANDS バッド・ランズ』『キリエのうた』『グランツーリスモ』『バーナデット ママは行方不明』『福田村事件』



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