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日本三大奇書を読んでみた四

 この記事は日本三大奇書を読んでみたの四回目である。
 日本三大奇書を読んでみた一・二・三を読んでくれるととても嬉しい。
 ネタバレを含んでおりますのでご承知ください。


『虚無への供物』下巻を読み終えた時、しまったしくじったと思った。
 本作はミステリー作品なのだから上下巻読み通してから感想を上げるべきだった。日本三大奇書をよんでみた三で「虚無への供物」上を取り扱い、四で下巻を取り扱うという行き当たりばったりな構成をしたのはまずかった。
 あらすじをまとめづらい。
 上巻のあらすじをまとめる時にTwitterでネタバレするのってどうなん?と思った結果ひどくあっさりとしたあらすじになってしまい(読み返したら、事件の詳細を一切書いてない)これに続けてあらすじをつづけるのはムズいよ。そこであらすじはさっさと終わりにして本筋の話をしようと思う。(ネタバレよりきついかもだが)


あらすじ

 
奈々村久生の婚約者である牟礼田敏夫が巴里から帰国。
 氷沼家に出入りしていた不動産の八田の義弟が死ぬ。(第一の殺人で殺された紅司の日記に出てきた人物である)
 牟礼田俊夫は知り合いのツテで氷沼の家に古くから使えていた(そして上巻の途中で精神病院に入院した)藤田老人を見舞う。
 藤田老人の奇行は病気によるものではなく、藤田老人は犯人に心当たりがありなおかつそのことを言うわけにはいかず…でも言わないわけにもいかず…犯人に繋がるキーワードを何度も繰り返す。ということに気がついたのはS精神病院が火にくるまれたあとである(中井英夫の小説に出てくる精神病院は必ず火に包まれる。何故だ)
 牟礼田は忠義心の厚い藤田老人が残してくれたキーワードとアイヌの伝承、五色の不動尊(目黒不動尊、目白不動、目青不動、目黄不動、目赤不動)から犯人を割り出し犯人を問い詰めると犯人はすぐ自供した。牟礼田も久生も犯人を警察に付き出そうとせず、彼は氷沼の家で過ごすのだろう。


この小説の本質について


 日本三大奇書は反推理小説(推理小説をおちょくるために書かれた推理小説)とも言われるらしい。
 この話は登場人物の大半が自分がシャーロック・ホームズだと思いこんでいるヤジ馬で、シャーロック・ホームズのような賢さもジョン・ワトソンのような善良さも持ち合わせていない。この話で本当の探偵役を担うのは牟礼田でその牟礼田が登場するのは下巻からである。
 人が目の前で死んでいるのに推理を始める推理小説のバカバカしさを笑うがこの話の本質だろう。おそらく、この作品が出た昭和三十九年にこれを読んでいれば、びっくりしたと思う。
 反推理小説の先駆けにふさわしい一冊である。

三島由紀夫と中井英夫

 この本の作者である中井英夫は三島由紀夫と親友だったと言う話は『幻想博物館』の感想文でも書いた。
 中井英夫、『虚無への供物』の後書きでも三島のことに触れている。三島由紀夫は中井の出先にまでおしかけて感想を熱っぽく語ったらしい。出先に押しかけていくなんてニコイチじゃないとできねーぜ。さらに、巻末の年譜に三島から中井へ宛てられた最後のハガキの内容が掲載されている。本当に仲良しだなあ。

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