【ショートショート】翼のない空
この作品はフィクションです。
実際の団体や人物は関係ありません。
「翼があれば、どこへだって行ける!」
そんなことを信じていたのは、まだ幼かった頃の話だ。
空を自由に飛び回る自分を想像し、現実なんて気にせず、ただ笑っていた。
だが、世界はどうも甘くない。
成長するにつれ
「あれ? これってただの夢?」
と気づかざるを得なくなった。
夢の中ではどこまでも飛べるけど、現実はどうも重くて、簡単には飛ばせてくれない。
社会人になった今
「翼なんて忘れた」
と自分に言い聞かせていたが、
時折「まだ飛べるかも?」
なんて淡い期待が湧き上がる。
それに気づくたび
「まだ夢見てるのか?」
と自分に苛立ちを感じる。
その微かな希望も、現実という名の巨大な岩に押しつぶされる。
夢は胸の奥でくすぶり続ける――消えそうで消えない焚き火のように。
そして、ある朝。
目を覚ました瞬間
「今だ!」
と心の中で叫ぶ自分がいた。
「今こそ飛べるはずだ!」
と、妙に自信を持って。
だが、そんな期待も束の間。
背中を探ってみるが、そこにあるのは翼ではなく、ただのシワだらけの布団。
どうやら、現実の中では翼は生えてこないらしい。
「またかよ……」
と苦笑しながら、重い体を引きずってベッドから起き上がる。
通勤途中、ふと空を見上げると、広がるのは灰色の雲。
やっぱり、現実はいつも重くて、翼なんてつけさせてくれないんだ。
それでも、また思う。
「もしかしたら、次こそは」と。
分かっているんだ。
翼なんて生えてこないって。
でも、なぜか、諦めきれない――だって、もしもその日が来るなら、と思うとさ。
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