【ショートショート】失われた“自分”を探して
この作品はフィクションです。
実際の団体や人物は関係ありません。
財布を落としたその瞬間、まるで自分自身も路上に置き去りにされたような気がした。
あの財布には、免許証、カード、そして生きている証明すら詰まっていた。自分が誰で、どこに属しているか、その存在すら疑わしくなってくる。
「これがアイデンティティの喪失…か?」
焦りのまま警察署に駆け込んで、受付にたどり着くと、係員が事務的に声をかけてきた。
「お名前は?」
その問いに、頭が真っ白になった。
「名前…?それは、俺…なのか?」
もはや何が何だかわからなくなり、思わず妙な言葉が飛び出した。
「す、すみません、名前はわかりません…が、財布をなくした者です!」
すると、係員はちらりと奥を指差し、淡々と言った。
「自己喪失者の列はそちらです。皆さん順番に『自分』を探してますんで、お待ちください」
列の先を見やると、同じようにアイデンティティの危機に陥った者たちが並んでいた。
もはや自分の姿も、その中の一部としか思えなくなってきた。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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