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【ショートショート】鏡の囁き

この作品はフィクションです。
実際の団体や人物は関係ありません。

山田龍一は、退屈な日常に飽き飽きしていた。
ある休日の散歩中、ふと目に入った古びた骨董品店の前で足を止めた。
店内は薄暗く、古い家具や小物が所狭しと並び、時間が止まったかのような雰囲気が漂っていた。


そんな中でひときわ異彩を放つ黒い鏡が目に留まる。
「人生にもっと毒を」と彫られたその鏡に、妙な魅力を感じた龍一は、衝動的にそれを購入した。


自宅に戻り、書斎に鏡を飾った龍一は、その夜、ふと鏡を覗き込んだ。
そこには、普段の自分とは違う冷酷で感情的な自分が映し出されていた。
驚きと恐怖が胸に広がりつつも、その映像に次第に引き込まれていく。


「君が鏡に話しかけるとはね。もっと刺激が欲しかったのか?」と、鏡の中の自分が薄笑いを浮かべる。


「まあ、たまには毒を吐くのも悪くないかもな」と龍一は応じたが、心の中では不安が募る。


夜毎に鏡の中の自分と対話を続けるうちに、龍一は次第に心の闇を受け入れるようになった。
ある夜、鏡の中の自分が言った。
「この満足感、他の誰かにも味わわせてやりたくないか?」


その言葉に不安を覚えた龍一は、鏡を布で覆い、二度と見ないと誓った。
しかし、心には新たな恐れが残る。
鏡の力は次の犠牲者を待っているのだ。


翌日、龍一は会社で同僚に「君もあの鏡を見てみるかい?人生にもっとスパイスを加えるのも悪くないさ」と冗談めかして言った。
同僚の顔が一瞬凍りついたのを見て、龍一は心の中でほくそ笑んだ。
「次の番は、君だ」


その晩、龍一は再び鏡を覗き込み、「さあ、次の犠牲者が楽しみだな」と鏡の中の自分に向かって呟いた。

その瞬間、鏡の中の自分が不気味に微笑んだ。


最後まで読んで頂きありがとうございました。

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