エッセイ#44『ほんとにあった夢十夜⑤』

 こんな夢を見た。
 その理由は恐らく寝坊かと思われるが、私は古本屋のアルバイトに遅刻をしてしまった。今まで無遅刻無欠勤を守り通してきたが、アルバイト3年目にして初めてこのような失態を犯してしまった。
 アルバイト先である店舗は、自宅から自転車で30分程の所にある。しかしながらその時の私はなぜか、徒歩での出勤を試みてしまった。特に焦っている様子も感じられない。
 過去に自転車に乗る夢を見たことがないことからも、もしかすると私の夢には自転車が存在しないのではないかと予想される。

 到着した時には、既に勤務開始時刻を大幅に過ぎてしまっていた。私は夕焼けに染まる空をバックに、店舗近くの坂を小走りで登っていた。
 ふと店の方を見ると、古本の詰まったケースが店前の歩道にまで広がっていた。どうやら私が出勤していないがために、古本の棚入れが進んでいないようだ。古本はどんどん溢れ、ついにはケースの列が私の元まで追い付いてしまった。
 これは大変なことになっている。私はいよいよ焦りだし、ケースを並べる店長に頭を下げた。しかし店長は怒る素振そぶりを見せることはなく、「おう。」とだけ発して私の代わりに入ってくれていた他の店員を紹介した。
 私は紹介された店員の姿を見て驚いた。なんと、私の代わりに作業を進めてくれていたスタッフとは、女性アイドルの”I”だったのだ。私の知らない間に、新人スタッフとしてアルバイトを始めたらしい。

 ラジオの夢に続いて2回目となる”I”の登場には驚いたが、夢の中とは言え私に変わって作業を進めてくれていた彼女には、いくら感謝してもし尽くせない。


見た日:2022年夏頃

”I”氏の初登場

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