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文系VS理系、どちらが賢いのか

 学歴議論で必ず盛り上がるテーマが「文系VS理系」である。大体は文系はコミュ力の高い陽キャで、理系は賢いけど社会で不遇の扱いをされる陰キャといったステレオタイプが形成される。中には理系至上主義的な考え方をする人間もいる。さて、今回は文系と理系の比較について考えてみよう。

理系の方が賢いけど・・・

 一般的に文系よりも理系の方が賢いとされる。筆者の感覚では、まあそうなのだろうと思う。ただ、その構造を明確に認識している人間は少ない。文系と理系の比較は学力ゾーンによって優劣が異なっているのだ。そもそも難関大の文系の方が普通の大学の理系よりも学力は高いし、理系学問の偏差値も高いだろう。例えば東大文一の数学の偏差値は京大理学部と同じくらいらしい。このように、文系理系はそれだけで優劣を判断するには広すぎるのだ。

 議論を体系化するため、筆者が普段考察に使っている、学歴ランク表を張っておこう。

レベル5 東大 
レベル4 一橋 東工大 
レベル3 早慶 旧帝
レベル2 MARCH 関関同立 地方国立
レベル1 日東駒専 大東亜帝国
レベル0 その他

 文系と理系の優劣は学力ゾーンによって異なっており、色々と興味深い傾向が見られる。

レベル5

 東大の場合、文理の優劣はあまり明確でない。東大出身者で理系至上主義や文系蔑視の考えを持っているタイプはあまり見たことがない。理由は東大の難易度が理系文系といった区別が通用する範囲を大きく超えているからだ。

 一般的に上位校ほどバランスの取れた学力が求められる。科目も増えるし、苦手科目があってはならない。東大理三に至っては数学は得意な前提で、英語と国語が鍵を握るという。一定以上の学力になると、「文系科目も理系科目もできるのが当たり前」という扱いだ。国語が苦手で理一・理二に合格するタイプが唯一許されるアンバランスなパターンだろう。

 したがって、東大生は文系も理系もある程度得意な人間ばかりだ。進路に関しても文系理系を超越している人達がいる。傍系進学で入ったのと別の学部に行く人間は珍しくないのだ。知識教養面に関しても、同様だ。古文に詳しい理系とか、数学が好きな文系はいくらでもいる。文理で得意科目に差があっても、突き詰めれば受験のために勉強したか否かという差の方が大きい。東大文系の数学力は少なくとも旧帝理系よりは上だし、それだけの水準があれば理系としてやっていくポテンシャルが無いとは言えないだろう。

 レベル5の学力ゾーンの場合は「理系マウント」を取っている人間自体が稀だ。極論、文理の差は入試の時の選択科目でしかないのかもしれない。旧東大後期入試に至っては文理の区別すら存在しなかった。

レベル4

 京大・一橋・東工大に多くの国公立医学部を加えたゾーンである。レベル4の場合もそこまで文理格差は存在しない。一橋は高度な数学力を要するため、理系から舐められにくいようだ。ただ、最近は地方衰退の流れにより、京大の文理格差が開いている傾向がある。

 このゾーンの文理格差が明確でない理由はおそらく国立大学の性質にある。レベル4以上の大学は一部の私大医学部を除いて全て国立大学だ。私立大学は資金力が不足することと、金儲け主義の側面があるため、文系学部を大量に増設する傾向がある。国立大学にそのようなインセンティブは無いため、文系学部の定員はむしろ絞る傾向がある。

 以前の記事で日本の学力上位層の25%は文系だという議論をした。東京一工の文系学部は東大文系1200人+京大文系800人+一橋1000人で3000人だ。ちょうど25%である。(残りの75%は東京一工の理系と医学部である。)

 難関国立大は文系と理系で明確なレベル差が存在しないと考えて良い。それを反映してか、就職の強さもおそらくあまり変わらないのではないかと思う。一橋と東工大の大企業就職率は同じくらいだ。

レベル3

 このゾーンになってくると、文理格差が発生するようになる。原因は早慶と旧帝にそれぞれ存在する。

 まずは早慶を見ていこう。早慶は私立大学なので、圧倒的に文系が多い。いわゆる「私大文系」である。早慶の社会での存在感は多分にこの数の暴力が関係しているのだろう。

 慶応医学部は別格としても、早慶は理工の難易度が他の多くの文系学部を上回っている。レベル4レベル5の受験生の多くは理系だが、このうち受験に失敗した人間の受け皿になるのが早慶理工だからだ。東大文系落ち、一橋落ちの受け皿は早慶文系という広い海なのに対し、東大理系落ち、東工大落ちの受け皿は早慶理工に集中してしまう。

 一方で早慶文系の場合はレベル3の中でもかなり下の方に位置する学部も多い。早慶のマイナー文系学部の難易度は北大や横国と同じくらいともいわれている。明らかに平均すると理系の方が上だ。東大落ちは早稲田政経や慶応経済に集中している。他に学部に進学している層はそもそも東大レベルに届いていない事が多い。

 また、科目の問題もある。早慶文系は数学が不要である学科が多く、センター試験も必要ない。早慶文系の入試が簡単とは言わないが、東京一工に対して圧倒的にバランスを欠くことは間違いない。それに学力が怪しい推薦やAOを多数含んでいる。

 旧帝はどうか。旧帝は国立大なので、文系学部の定員が絞られている。そのため、早慶ほどの文理格差はない。センター試験で得点を取らなければならないため、全科目まんべんなく勉強する必要があり、この点でも文理格差は縮まる。ただ、それでも東京一工に比べると文理格差はある。理系が総じて英数理科2科目なのに対し、文系は三科目でOKであることが多い。

 旧帝の文理格差はむしろ卒業後だ。文系の就職先は首都圏一極集中が激しく、地方大学は全般的に不利だ。旧帝大の理系は理工系優秀層のボリュームゾーンなのに対し、旧帝文系は早慶にかなり劣後する。キャリア形成上も首都圏のエリート企業にあまり縁がないことが多い。

 マイナーな論点だが、法学部の存在という点も挙げられる。これは最近は消滅した要因かもしれない。東大法学部を筆頭に、国立大の法学部は伝統的に格が高く、理系学部にも引けを取らなかった。一方で早慶を始めとした私大の法学部は数学が不要な軽量入試であり、偏差値的には経済学部に劣後する。以前の記事でも述べたが、経済学部と理工学部は性質上明確に優劣があり、経済学部の難易度が理工学部を上回る可能性は低い。

 総じてレベル3辺りから文理格差が目立ってくる印象がある。最大の要因は早慶文系の定員の多さだ。

レベル2

 このゾーンになるとかなり文理格差が大きくなる。おそらく、理系優位論をしきりに唱えているのはレベル2付近なのではないかと思われる。

 まずレベル2.5とも言える、レベル2の中でも上位に位置する大学(筑波大・千葉大・金沢大・東京理科大など)は理系優位だ。おそらくレベル2.5は理系として第一線に立ちやすいボーダーラインではないかと思う。理系研究者の学歴を考えても、この辺りの大学の出身者は大量に存在する。理系で何かをやりたい人間はレベル2.5までに入っておきたい。

 レベル2.5の大学の宿命は上に早慶が鎮座していることだ。お陰でレベル2.5の大学は高学歴ではあっても、微妙な立ち位置になることが多い。早慶が学歴フィルターにかかることはないが、レベル2.5の場合は微妙に行きにくい業界が出てくる。文系の場合は深刻な影響が発生する。

 ところが理系の場合は大学以降の学びが重要になるし、大学院で逆転するという手もある。理系はジョブ型の気質が強いので、スキルを積めばそこまで学歴の影響が低い。レベル2.5のゾーンは旧帝に比べて決定的に不利にはならないのである。ちなみにレベル2.5の中で数少ない文系は中央法だが、この学部は司法試験という別の強みがあるため、理系と同様に早慶を倒すことができるのだ。一方で上智大はこのような強みが存在しないため、早慶に圧倒されて凋落を余儀なくされた。

 その他の普通のレベル2に関してはどうか。これまた理系優位だろう。理系の方が定員が少ないことに比べ、文系はMARCH文系が大量に存在している。また、理系科目はある程度勉強しないとついていけないが、文系の場合は入ってから高校までの積み重ねを使う機会が少ないため、まぐれ合格の人間でもそこまで致命的なデメリットは無い。MARCHの推薦や内部生はかなり学力の怪しい人間が含まれているが、理系の場合はそうした問題は無い。ある程度基礎学力がないと大学についていけないし、大学に入ってからの学びが十分なら、それで問題がないからだ。

 地方国立大学はどうか。私大ほどではないが、学力の文理格差は一定程度存在するだろう。それ以上に深刻なのは就職先の乏しさである。地方は本当に文系大卒の仕事がない。駅弁理系は研究者として大成したり、大手メーカーに就職する人間が多いが、文系は市役所などがメインである。

レベル1

 文理の構成比は上位に行くほど理系が増え、下位に行くほど文系が増える。最上位層において文系の割合は25%だが、平均的な高校生は70%が文系らしい。

 レベル1の場合、学力的な問題で理系科目を習得できない人間がかなりの割合で存在するはずだ。この場合、消去法で文系を選ばざるを得ない。理系のレベルの高さの要因は、理系は一定以上の学力がないと選択すらできないこと、理系大学はある程度の学力がないと入ってからついていけないこと、等が挙げられる。

 レベル1の場合、理系大学についていける時点でかなり賢い部類となるだろう。

レベル0

 このランクに同等する大学は基本的にFランだ。機能している理系大学は存在しないので、基本的に全員文系と考えるべきだ。

文理格差の見取り図

 理系科目を理解するには一定の素質と基礎学力が必要だ。したがって、上位に行くほど理系が増え、下位に行くほど文系が増える。レベル4レベル5であれば75%が理系だが、レベル0になると実質的にゼロだ。

 しかし、レベル4レベル5の大学の場合は文系の定員が少なく、学力差はあまりない。文系の方が学歴ブランドの価値が大きいため、東京一工の場合はむしろ文系の方がメリットが大きいかもしれない。

 レベル3になると複雑になってくる。文系の定員が早慶の影響で圧倒的に多くなるため、基本的に文系の方が入るのは易しい。また、レベル3辺りから数学が致命的に苦手な層が出てくる。

 レベル2の場合はいろいろな意味で理系優位だ。これは学力面もそうだし、卒業後のキャリアもそうだ。ただし、MARCH理系は微妙である。

 レベル1の場合は正直理系があまり機能しているとは言い難い。このゾーンで理系科目をマスターした人間がいた場合、それだけでかなりの上位層である。

 これらを踏まえると、レベル4以上の人間は文系を選んでも理系を選んでも大した違いはない。レベル3の場合はコスパの問題もあってなんとも言えない。レベル2の場合は理系の方が活躍できる可能性が高い。ただ、実際は選択の余地が存在しないことも多いと思う。致命的に数学が苦手な場合、レベル4以上の大学は厳しいため、レベル3で頭打ちが発生する。上位大学になるほどオールラウンダーとしての要素が必要になってくるのだ。



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