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同学年トップ1000の天才の進路について

 筆者が愛読している「東大卒の人生を考える会」さんの投稿でこうした記事があった。

 筆者も以前、似たような考察をしたことがあった。同学年でトップ1000という水準はそこそこ安定していて定義しやすいので、考察の材料としては考えやすいのだ。このトップ1000、どこに生息しているのだろうか。

 まず同学年のトップ1000、すなわち上位0.1%に入るのは難しい。東大に入るのは上位0.3%であればいいので、これよりも難易度は高い。筆者はこの難易度を査定してみたことがあるのだが、だいたい灘高校に入るのと同じくらいだ。大学受験でたとえると、阪大医学部や慶応医学部に相当するだろう。レベル的には超進学校や超難関医学部に近い。東大にある程度余裕を余して(楽ではない)受かる天才集団と考えてよい。超進学校の上半分の水準と同じで、地方公立のトップ高校であれば学年トップ5に入っているはずだ。

 以前の記事で学歴のランクについて論じた。上位1000人の天才は基本的にこの記事の「レベル6以上」に該当する。一般の東大生は「レベル5」となる。

 トップ1000はどのような属性の人々か。まずは学部選好だ。文理の比較を行うのは難しいが、超進学校の文理比率を見ていると、平均して25%~30%ほどが文系のようだ。ただ、数学が苦手で文系に進んでいる生徒も存在するだろう。正確に割り出すのは難しいが、文系25%・理系75%くらいの割合がちょうどいいのではないかと思う。

 ややこしいのが医学部の存在だ。東大理三というかく乱要因もある。進学校の理系がどの程度東大理系と医学部を志向するのか査定するのは難しい。いろいろな進学校の進路を探ってみたが、医学部は場所によって難易度が異なることから、統一的に査定するのは難しい。いろいろ考えたが、文系25%・東大理系40%・医学部35%という志望比率を考えればいいのではないかと思う。筑駒や麻布のような都会の男子校は文系志向が強く、灘やラサールのような地方の進学校は医学部志向が強いという傾向がみられる。

 進学先はどうか。文系の場合はほとんどが文科一類に進む。数学が苦手で文系という人物は少なく、理科一類と天秤にかけている人も多かった。集中度合いはかなり高いと考えてよい。理工系の場合は理科一類が大半だ。ただバイオ系に興味があって理科二類に進む人も多かった。文系ほどの偏重はない。医学部は難しい。理三は「東大のトップ」を目指す人と「医学部のトップ」を目指す人がいて、ややこしい。京大医学部も似たような傾向があるかもしれない。医学部に興味がないけど偏差値が高いから医科歯科・慶医という人は見たことがない。理三には届かないが医学部に行きたい優秀層が堅実に決めてくるイメージである。なお、難関の千葉医ですら上位1000人の天才が進むことは少ない。やはり慶応か医科歯科で決めることがほとんどだ。

 これらをいろいろ考えると、上位1000人の天才の進路が分かる。おそらく
東大理三 100人
京大医学部 100人
その他の医学部 200人
東大理一 300人
東大理二 50人
東大文一 200人
東大文二・文三 50人

という比率が妥当なのではないかと思われる。東大に受かる学力で京大に行く人はいるが、上位1000人ともなるとほとんどが東大に行くものと思われる。一工や早慶などの他大学も全て除外できる。早慶の内部性にはひょっとしたら天才が隠れているのかもしれないが、受験市場に出てこない以上、評価不能だ。分散しているのは医学部だ。「その他の医学部」は阪大・医科歯科・慶応が太宗を占めるが、東北大や九大もいるだろう。ここは変則的である。なお、理三京医を除いて基本的には現役進学者である。

 次に出身地を考えてみよう。東大生の60%弱は首都圏の出身なのだが、これは地方出身者が医学部志向が強いことを考えると、やや首都圏偏重だ。東大理三の合格者の出身地などを考えると、だいたい首都圏50%・関西圏25%・その他25%と考えられる。首都圏は日本平均の2倍、関西圏は1.3倍高学力者の頻度が高いことになる。首都圏の環境を考えると、感覚的には妥当だ。また、首都圏の場合は東大合格者の比率や超進学校の人数を考えると、中学受験組75%・高校受験組その他25%が妥当な比率と思われる。

 続いて男女比だ。東大の男女比はだいたい20%弱だ。ただし、東大と同レベルの医学部は女性率が30%に及ぶところもある。東大理三の女性率は20%弱である。他にも開成・桜蔭の難易度比較などを考えると、だいたい上位100人の男女比は男性80%・女性20%と考えるのがちょうどいいだろう。

 さて、進路について考えてみよう。まず400人は医者になる。最大多数派だ。これだけの天才が押し寄せる医者という業界はなかなか大変である。残りの進路はそこそこ分散している。文科一類の200人のうち、100人は法曹になり、50人は官僚になると思われる。残りの50人はコンサルなどに進む。文科二類の場合は外銀・外コンが多い。文科三類の天才は本当にわからない。今から思うと超進学校の教師はこのカテゴリだったのだろう。理一理二はカオスだ。研究者になる人もいるが、大半は普通に就職しているイメージだ。メーカーの研究職やIT系が多い。また、正確な数は推し量るべくもないが、一定の確率で高学歴難民になる人間がいる。地元に帰ったり、塾講師になったり、零細プログラマになったり、ニートになったり、自殺(!)したりというコースが多い。

 いろいろ考えたが、トップ1000人の天才のうち、一般企業で働いているのは300人ほどだと思われる。意外だが、大半は理系である。400人のうち、外資系と理系技術職が多くを占めるだろう。アクチュアリーやクオンツのような金融専門職や、メーカーの開発職も当てはまる。経団連のおっさんが排出されているような伝統的な日本のビジネスエリートはあまり多くない。

 掲載記事で扱われていた東京駅周辺のエリサラに関しては、確かに上位1000人に入る人間は多くないなという感想だ。確かに大企業でブルシットジョブに従事するにはオーバースペックなのかもしれない。筆者の友人にアクチュアリーをやっている人物がいるのだが、この業界は結構な確率で上位1000人の天才が存在する。多くは東大数学科で研究者の道をあきらめた人物だ。どうにも仕事がブルシットジョブで毎日空虚感に襲われるそうだ。

 JTCの文系総合職となると、50人くらいかもしれない。文科二類の最優秀層は官僚や外資に行くことが多いので、JTCの総合職の多くは文科一類だ。第一志望という人物は少なく、何らかの挫折をしていることが多い。ただ、JTCの文系総合職といってもやりたいことがあってテレビ局や出版社に飛び込んだ者もいるので、東京駅周辺のエリサラ企業でブルシットジョブに従事している人物は30人くらいだろう。

まとめると
医者 400人
官僚 50人
弁護士 100人
研究者 100人
一般企業 300人
 ・理系研究職 150人
 ・外資やベンチャー 100人
 ・JTC 50人
高学歴難民 50人
といった具合だと思われる。

 東大卒の人生を考える会さんも言っているように、エリサラの界隈で見かける東大卒に上位1000人の人材は少ない。どちらかというと先ほど述べた「レベル5」の東大生が大半だ。ただ、エリサラのボリュームゾーンは一流企業であってもレベル3か4であることが多く、東大生の多くは若干オーバースペック気味かもしれない。

 ところで、である。しばしば上位1000人の天才が大企業でブルシットジョブに従事しているのはもったいないという話がある。確かにアクチュアリーをやっている友人は明らかに仕事よりも副業の数理的業務の方に才能を発揮しているし、ほかの知人もそうだ。頭脳的にはオーバースペックなのかもしれない。ただし、それじゃほかの業界が上位1000人の能力を十分に生かせるかというと、微妙なことも多い。例えば医者は働いてみると大学の偏差値はほぼ無関係らしい。確かに医者は高い学力が求められる仕事だとは思うが、地方国立医学部に入学できる水準があれば十分であり、上位1000人に関しては明らかにオーバースペックだ。国家公務員も確かに精巧な制度設計には驚嘆させられるが、意外に法制度に詳しいのはノンキャリアだったりする。どうにも(研究者やクリエイターは別かもしれないが)上位1000人の能力はどこの職場に行ってもオーバースペックにも思える。実は上位1000人の天才が医者になったり官僚になったりするのは単なる文化的慣習の問題で、社会的な意義は乏しいのかもしれない。

 確かに一般企業で上位1000人の天才は能力を持て余すのかもしれないが、そもそも見合った就職先とはなんなのか、ともなる。確かに官僚や外コンなどトップエリートでないと入れない就職先はあるが、こうした職場は天才的な仕事をやっているというよりも、エリート意識を利用したやりがい搾取であることが多い。

 思うに、上位1000人の天才というのは特定方向に過剰発達した個体であり、社会的価値は思われているほど大きくない可能性がある。身長2メートルを超えれば優れたスポーツ選手になれるのかという話である。ポテンシャルが評価される段階では彼らは非常に期待されるのだが、これを実際に結果に落とし込む段階になると周囲も自分も「こんなものか」と思うことになる。金や身長と同様に、頭の良さも一定水準を超えると効用は逓減していくのだろう。


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