書籍「あすは起業日!」に見る、女性のキャリア
少なくとも日本では、「女性の起業」を中心に描いた小説というのはこれまであまり存在しなかったのではないでしょうか。
そんな、もしかしたら新しいカテゴリとなる「女性起業家小説」がつい先日発売されました。
「本棚で手と手が重なるように出会えるオンライン書店」をコンセプトとした、サブスクリプション型選書サービス「Chapters書店」を手掛ける森本萌乃さんの「あすは起業日!」です。
Amazonに記載されている紹介文をお借りして、まずはどんな本か簡単にご紹介します。
今回はこの本を通して感じた、女性のキャリアや起業に関する考察をいくつかご紹介したいと思います。(重要部分のネタバレにはならないかと思いますが、これから読む予定の方で中身をまだ知りたくない!という場合はぜひ読了後にこちらお読みいただければと思います)
共感・尊敬できる同性の「メンター」的存在の重要性は、計り知れない
会社をクビになった主人公の加藤スミレは本の序盤、転職エージェントのウェブサイト経由で知った会社の女性社長との面談に臨みます。詳細はネタバレになってしまうので割愛しますが、この女性の会社に就職する訳ではないにも関わらず、この女性との出会いがスミレの起業を実利面だけでなく、精神面でも大きくサポートすることになります。
帝国データバンクの2023年の調査によれば、日本全国約119万社の事業会社において女性が社長を務める会社の割合は8.3%。過去最高に割合にはなりましたが、これでも10%にも満たない数字です。
少し広げて管理職に占める女性の割合を見ても、2021年時点で13.2%と、30%以上を達成している諸外国に比べても低い水準となっています。
つまり単純に考えれば、女性が同性の管理職、ひいては社長に出会える可能性は、男性のそれと比べて非常に低いと言えますし、男性は女性に比べて圧倒的に多くの「同性の上位役職者」に出会っていることになります。
自分より高い役職にいる同性の存在は、自分の人生の見通しを立てる上で非常に重要な参考情報になります。さらにいえば、その同性が自分の頑張りや努力の方向性を認めてくれたり、過去の経験に基づいてアドバイスをくれたりすれば、それは何にも代えがたい強力なサポートになります。
女性がこういった同性の存在に出会えることは残念ながら非常に稀ですが、まずは少しでもこういった存在に出会えそうなチャンスや場があれば、積極的に顔を出してみるに越したことはないように感じます。
女性の起業に、「きれいなストーリー」は要らない
本の中盤、オンライン書店の立ち上げの資金調達のため、主人公の加藤スミレはVCとの面談を重ねます。その中でとあるVCの方から、このような言葉をかけられます:
これは一見至極全うなコメントなのですが、実はこのように言われる原因には"女性"起業家であることが関わっているのではないか、と感じます。
先日、日経新聞のインタビューで、エンターテインメント会社GENDAの社長でありモデルでもある申真衣さんのご経験として、このような内容が語られていました。
日本政策金融公庫総合研究所の2022年のアンケート調査によれば、回答者の「起業家」に占める男性の割合は実に75%以上で、女性は25%未満にとどまりました。
残念ながらまだまだ男性の起業に比べ女性の起業は数が少ないため、「女性が起業するのであれば、(「普通」のことではないので)そこには何か相当な経緯とストーリーがあるのだろう」という無言のプレッシャーが存在するように感じます。今回の「あすは起業日!」はノンフィクションではなくあくまで小説ですが、筆者である森本萌乃さんの経験が現れたシーンなのではないかと推察します。