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なぜ高野連は甲子園を秋に開催しないのか

「一向に改革をしない態度」を批判される高野連

猛暑が続く近年、
現行の夏の甲子園大会日程等を大幅に変更しない高野連が
毎年やり玉にあげられている。
その中で改善「案」として特にあげられることが多いのが、
甲子園球場のドーム化や京セラドーム大阪の使用、
そして今回とりあげる「甲子園の秋開催」である。
高野連も一時期「2部制」の導入を検討するなど
猛暑対策に何らかの手を打つことは考えているようだ。
ただこの「2部制」に対しては
高野連を批判している人たちの評価も芳しくなかった一方で、
松井秀喜氏のような大物のプロ野球OBが提案した場合は
それなりに高く評価されていたようだ。

さて
甲子園球場のドーム化にせよ
京セラドーム大阪の使用にせよ
「甲子園の秋開催」にせよ、
これらの「案」に共通するのは
「高野連が決断すれば
明日にでも実行可能」と考えられていること
だ。
そんなにすぐにでも実現可能なことを
高野連がいつまでもやらないのはなぜだろう。
「甲子園球場のドーム化」についてはnoteの中で、
京セラドーム大阪使用の問題点については
ブログのほう
で簡単に書いているが、
ここでは「甲子園の秋開催」について考えよう。

なぜ高野連に「秋開催」を決断させようとしない?

しかし秋開催については、
ほんの少し考えただけでも
逆にこういう疑問が出てくる。
「なぜこの人たちは
高野連が甲子園大会を秋開催にしたくなる主張をしないんだ?」

なぜかと言えば、
高野連が甲子園大会を夏に開催し秋には開催しないのは
高校には長期の夏休みはあっても長い秋休みはないから」
であって、
高野連に甲子園を秋開催にする決断をさせる
最も有効な案は
「全国の高校を一律で前期・後期の二学期制にし、
夏休みをほぼ廃止して秋休みを採用させる
」こと
だからだ。
日本の伝統的な風習となっている盆休みだけは
山の日と組み合わせて数日間残し、
代わりに後期が始まる
10月1日の前に長期休業日を設ける。
こうすれば高野連も
非常に長い遠征期間を必要とする全国大会を
夏ではなく秋に移行させやすくなるはずだ。

そしてこれは
公立・私立等合わせて全国一律でなければ意味がない。
たまに
「二学期制の高校が増えてるから秋開催にできるはずだ」
という主張を見かけるが、
二学期制の休み期間は基本的に夏と冬である。
東京都を例にとると
二学期制の夏休み期間は
三学期制と全く同じ7月21日から8月31日までで、
秋休みはあっても
前期終了後の数日程度しか設けられない。
高校野球の全国大会を開催できるような
長期の秋休み期間を確保するには、
全国一律での二学期制への移行に
夏休み期間の大幅な短縮と秋休みの導入を
同時に行わなければならないのだ。

しかもこれは
東京都の例で明らかなように
各都道府県の教育委員会や各高校が決めるもので、
高野連が単独でどうこうできるものではないはずである。
しかしどういうわけか
「秋開催を決断しない高野連」を叩く人たちのほとんどは
このような主張をしない。
そればかりか、
ごくたまに見かける
「夏休みの縮小と秋休み拡大」を主張する人も
学期や休み期間などを定める権限を
高野連が握っていると思い込んでいる人ばかりなのだ。
このことから
高野連が甲子園大会を秋に開催しない最大の理由は
「高野連の力では実現不可能な無理難題を押しつけられ
批判する材料にされているだけ」
ということになる。
これではただの悪質なクレーマーと変わらない。

たとえ「秋開催」の第一段階は整っても

さて、
もし国や自治体などの権限をもって
全国の高校に長期の秋休みが採用されたとしても、
まだまだ大きな問題点は山積みである。
私のような素人でも思いつける
問題点をいくつか挙げていこう。

受験勉強

高校野球の全国大会が1ヶ月後ろ倒しになるということは、
3年生の野球部員の引退時期も
これまでより1ヶ月先になるということ。
それどころか
サッカーなどの屋外競技も含めて
夏休みにインターハイが行われる運動部や
夏休み中に大会がある文化系の部活・同好会も
全て一ヶ月ずれるはずだ。
ここで問題になるのが
そのぶん減少する受験勉強期間である。
野球部員に限らず
これらの部活に所属し
一般入試を受ける予定の
全ての3年生にかかわる問題なのだ。
少なくとも
2017年春の早稲田実業―日大三高戦に対して
「高野連が金のためにナイターにして
球児たちの翌日の授業を台無しにした」と
叩いていた人たちが主張できることではないはずである。

「秋の甲子園」に出場する高校をいつ決める

甲子園の秋開催を主張する人たちが
8月開催に反対する理由は
「夏の酷暑を防ぎ球児の健康を守るため」
だったはずである。
では
「秋の甲子園」出場校を決める予選は
いつ行う
のだろう。
普通に考えれば
全国大会が1ヶ月後ろ倒しになるのだから
「酷暑の8月」に行うことになり、
最も暑い時期に行われる試合の対象が
「甲子園出場チームのみ」から
「予選に出場する全国の高校球児全員」に拡大
する。
つまり
「夏の酷暑を防ぐ」という秋開催の理由づけが
この時点で完全に破綻している
のだ。
予選にリーグ戦を導入する場合は
全体の試合数が激増するので
今までどおりの7月に8月も加わるだけ。
逆に予選だけを前倒しすると
今度は梅雨の時期に
雨が降っているなかでも試合をしろと
言っていることになる。

秋開催が10月以降の場合

秋休みを設けられるのは
どうしても9月になるため
ここまでの話も9月開催を想定していたのだが、
世間では
秋休みなどの長期休業期間には全く興味なく
10月以降の開催が前提になっていると思われる
「秋開催」の主張も珍しくない。
では
今あげたような問題点も
10月以降の開催ならクリアできるだろうか。

どう考えても
答えは「NO」である。
何といっても
一般入試を受ける3年生の勉強期間が
大幅に減らされる。
またこの方法だと
通常授業の期間中に
何週間も遠征させるわけにはいかないので
開催を土日に限定しなければならず、
勝ち上がったチームは
関西のごく一部の高校以外
土日のたびに長距離移動を余儀なくされる。
そのつど費用はかさむし
移動時間のぶん勉強時間も減り、
疲労度もおそらく
甲子園周辺にとどまる場合の比ではない。
特に日曜の第4試合に出場した高校は
帰りの移動が深夜までおよび
「翌日の授業に差し支える」はずである。
あまりにも大きなデメリットに対し
メリットは
予選が9月になって少しは暑さも和らぐこと
ぐらいしかないのだ。

なお
ここまで各地での秋季大会の話をしなかったのは、
「秋開催」を主張する人たちは
秋季大会のことについては何も考えていないか、
センバツ大会と秋季大会をともに消滅させたいか

どちらかしかいないだろうとふんだためである。

忘れられる甲子園大会が秋だと非常に困る人たち

さて「甲子園の秋開催」論ではもう一つ、
大会が秋に開催されると非常に困る人たちが
置き去りにされている。
阪神タイガースだ。

高校野球のため
8月に約3週間甲子園での試合ができなくなる
いわゆる「死のロード」。
この「死のロード」が8月から9月に移動すると、
優勝争いやCSに向けた順位争いが大詰めを迎える
大事なペナントレース最終盤に、
タイガースは
ホーム甲子園球場での試合が不可能になってしまうのだ。
そうでなくともシーズン最終盤は
中止になった試合の代替試合を組まねばならず、
日程調整が大変な時期でもある。
現在の「死のロード」のように
シーズン前から京セラドームでの試合を組んでおけばいい
という問題ではなく、
バファローズとの調整も非常に困難なものになる。
「センバツの時は京セラドームを使ってるじゃないか」と
言う人も多いだろうが、
これも同じことだ。
また
選抜高校野球が甲子園球場を使用し始めたのは1925年。
タイガースが誕生するよりも10年以上早く、
そのこともあってかタイガースは
センバツの期間とかぶる時期に
甲子園での開幕戦をしたことが一度もない。
かつて前年にタイガースがAクラスだった場合は
リーグの開幕がセンバツよりかなり前または後になるか、
岡山を使用するか、
あるいは前年Aクラスでもロードで開幕を迎えるかで、
日本一になった翌86年の開幕戦は横浜スタジアムだった。
もちろんタイガースにとっては
この点が改善されるに越したことはないが、
少なくともセンバツ大会では
こうした扱いが前提のもとに作られた球団と言える。
しかし9月開催となると状況が変わってくるだろう。

10月開催の場合はもっと悲惨だ。
なにせ
「CSも日本シリーズも甲子園ではやらせない」と
言っているのである。
それとも
「阪神はどうせ日本シリーズになんか行けないよ」
とでも言いたいのだろうか。
たとえそういった意識はない、
すなわち
そのような点をただ考えられなかっただけとしても、
9月開催と同じで
オリックスとの調整問題も抱えている。

「球児のため」は誰のため

つまり
表面的には
「高校球児のため」と称している
甲子園大会の秋開催というのは、
高野連や高校球界だけではなく
タイガースやバファローズをはじめとしたプロ野球界にも
徹底的にデメリットをもたらすものにすぎず、
それでいて
肝心の球児にすらも何のメリットももたらさないものなのだ。
このうち
休み期間やプロ野球などに関わる問題点は、
単に一時の感情に任せて
そのような問題については
何も考えようとしない人が大半なところに
プロ野球や日本球界全体をはじめ
今自分の思い通りになっていない
スポーツとその関係者全てを見下している人たち
などが加わるので、
これらのデメリットについて
全く指摘しないしそもそも興味もないというのは
わからないでもない。
夏のインターハイのことは
一切口にしないのも単に興味がないからだろう。

しかし最大の問題は、
秋開催による球児へのデメリットが
今まで「球児のため」として
高野連批判の根拠に用いられてきたものばかり

という点である。
「球児のため」がただの欺瞞だとはっきりわかるのだ。
ならば、
今まで述べてきた秋開催のデメリットにせよ
甲子園から京セラドーム大阪への開催地変更による
「球児に人工芝の負担をかける」ことなどにせよ、
高野連の猛暑対策を批判する人たちは
猛暑を防ぐための方策によって生じるデメリットを
だまって受け入れるのだろうか。
とてもそうとは思えない
これらのデメリットを甘受するのは
せいぜいプロ野球選手、OBなどの野球関係者だけで、
それ以外のほとんどの人間が
新たに生じたデメリットを理由に
また高野連を批判するだけ
なのは目に見えている。
その時の「かわいそう」などの感情を発散したい、
自分の思い通りにならない高校球界も日本球界もぶち壊したい、
高野連以上に新聞社やテレビ局が気に入らないなど
真のポイントは人によってさまざまではあるだろうが、
たしかなことは一つ。
ここでの「球児のため」とは
「『球児のため』を口にしている「自分のため」

すぎないということだ。


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