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雨の日は、珈琲の音がする

目覚ましの鳴らない朝に限って、早起きしてしまうことがある。

もぞもぞとスマホに手を伸ばし、側面のボタンをポチッ。片目で見た画面には5:52という数字が映っている。

少しだけ間を置いてから、そーっとベッドを抜ける。立ち上がって分厚いグレーのカーテンを開けると、まっ白な空が目に飛び込んでくる。

その白い背景に、浮かび上がるように並んだマンション。手前の建物の屋上に目を落とすと、水たまりが音もなく揺れている。


ああ、今日は雨か。


カーテンを留めて、いつもより沈んだ雰囲気のリビングへ。「さて、珈琲を淹れようか」と、ポットを手に取る。浄水器のスイッチを切り替え、蛇口からたっぷりと水を注ぐ。戸棚を開けてお気に入りのマグを取り出して、お湯が沸くのを待つ。


ポコポコポコ、シューーッ、、、カチッ。


ポットを取って、マグの4割くらいまでお湯を注ぐ。少しだけ贅沢気分を味わえるテクニックだ。マグが温まるのを待つ間に、その日の気分で珈琲を選ぶ。


珈琲はいつもドリップパックだ。ぼくしか珈琲を飲まない我が家に、立派な器具はない。1人ドリップには最高のアイテムで、長年愛用している。


クリーム色に、落ち着いた赤色のパッケージ。
Blendyのモカ・ブレンドを手に取って、袋からドリップバッグを出す。バッグを軽く振り、粉を下に寄せる。これを怠ってはいけない。いつか後悔することになる。

ジジジジジ、と切り取り線に沿って破る。左右のフックをつまんで開くと、甘い香りがわっと広がる。


ああ、朝がきた。


そう思う瞬間。

お湯を捨てたマグのふちにフックをかけて、準備が整ったことを確認する。さて、いよいよだと気持ちが高まる。


ちょぼちょぼちょぼと、粉に少量のお湯を注ぐ。20秒ほど蒸らすのが良いらしい。今まさに旨味が染み出ている、そんなイメージを膨らませながら、湿った粉を見つめる。

そうしてから、2回、3回と、お湯を注いでいく。バッグから溢れないよう気をつけながら、じっくり、じっくりと。



ぽとぽとぽとぽと、、ぽちょん、ぽちょん、、。



最後の一滴まで落ちたことを確認し、フックを外す。

マグに顔を近づけてみる。湿った空気と豊かな香りが、朝の気分を高めてくれる。
しっかり楽しんだら、次は冷蔵庫に手を伸ばす。取り出したミルクを、少しだけ、でも勢いよく入れる。

ちょぽん、と音を立てて揺れる水面。黒からブラウン、そしてミルクコーヒー色へと刹那に様変わりする姿は、ふだん化粧っ気のない女性が急にドレスアップをして現れたような印象を受ける。


とても美しい。


どっちも好きだけど、こっちの方が好き。



ようやく完成したオリジナル珈琲。

マグを片手に、窓の外を眺める。ベランダの物干し竿は濡れていて、今にも落ちそうな雫が光っている。

窓を開ければきっと、雨音が聞こえるんだろう。その小さい音を無意識に感じているせいか、雨の日はいつもより、音に敏感になっている気がする。



程よい厚みと、滑らかな口触りのマグ。その中にたっぷりと入ったミルクコーヒー。

一口飲むと、喉を通るときの音が聞こえた。

しずかでやさしい、雨の日の珈琲の音。


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