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私は夜叉、おっちゃんは……

 近くのコンビニで。

 私が入った時すでに、店員さんに怒鳴ってるじじいがいて、いやだなーと思いつつも私は品物を持って列に並んだ。(レジはふたつあったからね)

 店員さんは新人ぽくて指導する人も隣について対応してたけど、じじいはいつまでも罵詈雑言を怒鳴ってて、新人の店員さんはすっかり萎縮しちゃってた。しかも列で待っている人の中にはマイルドヤンキーみたいなガタイのいい強面のおっちゃんがひとりいる。この人もあまり待たせるとやばそう。むしろこのおっちゃんが怒鳴ってじじいを蹴散らしてくれないかな……いやそれだと店員さんもびびり上がるからだめか。

 ふだんの二分の一のスピードで進む列に並びながら、私はじじいの後頭部を凝視しながら(できうるかぎりむごたらしい○に方をしますように)とひたすらのろいをかけていた。

 その後ようやくじじいが出ていって、ほっとした。

 レジは2台体制に戻り、列の進みが早くなる。と、順番的に例の怒鳴られていた新人さんのところに強面のおっちゃんが行った。まさか文句言わないよね……と若干ハラハラしてチラ見してたら、おっちゃんは新人さんの、もうだいぶキョドっちゃっておぼつかないレジ対応を黙って見てたので、これまたほっとした。

 次の瞬間、信じられないような優しいダンディボイスで、

『……虫の居所の悪い人もいるけどさ。がんばってね。』

 って聞こえてきた!

 えっ!?

 今のおっちゃんが言ったの!!!???

 まちがいない、新人さんと指導係さんがすっごい頭下げてありがとうございましたしてる!!!!!!!

 この瞬間、いかつい顔をしたガタイのいいマイルドヤンキーは消え失せ、私の前には、ゆうゆうと歩み去る非番の十二神将の一人ががいた。あの、頭に十二支の動物のっけてないのでどの神将さまかわかりません、せめてポーズを取っていただけたらなんとか判別いたしますんで……


 しかし、なんということだろう。

 私は、傷つけた側を破滅させることしか考えていなかった。

 おっちゃんは、傷ついた側を救おうとした。

 なんという差だ……まるで夜叉と仏じゃないか……

 なんたる未熟……!


 ……いや、きっと、物事は常に両面があるように、この世の邪悪を滅ぼす役割も必要で、同時に傷つけられたもの、痛めつけられたものを救う役割も必要なんだ。私は怒るとすぐに攻撃に出ようとするけど、それと同時に傷つけられた心を癒やすことも必要なんだ。でないとそのうち人間に対する憎悪はバランスが取れないほど膨れ上がるかもしれない。

 自分や親しい人たちに向けられる理不尽な侵攻を押しとどめる盾と、その発生源を撃滅するための矛を備えるのは大事だけど、それと同じように──「攻撃」や「防御」といったアクションと同じように、「治癒」するというアクションも必要不可欠なんだ。

 それは「今度いっしょにアイツ殴りに行こうぜ」と言うことでもなく、「今度ああいうこと言われたらこうするといいよ」的なアドバイスでもない、ただそばに身を置いて、いっしょに悲しみや苦しみに浸ることなのかもしれない。


 あなたは孤独じゃない。

 私がここにいるよ。

 あなたのことを見守っているよ。

 立てるときが来たら、いっしょに立とう。


 ひとりじゃない、って思えることって、とても大事だよね。きっとあの店員さん、他のお客さんを待たせすぎて申し訳なく思っていたかもしれない。だとしたら、他ならぬその待たせたお客さんに優しい言葉をかけてもらって、どんなにうれしかっただろう。私も客商売だから身に覚えがありすぎるほどある、ふだんこっちの都合も考えず『ねェーちょっとさっきから待ってンだけどォー』と文句を言う連中に心の中で(今ほかのお客さんの対応してるでしょうが!見えないのかゴラァ(# ゚Д゚)!)と思ってるところに『忙しいところありがとうね。助かるよ。』って言ってもらえた時の充足感。たとえ99人がくそい連中でも、たったひとりでもそういうお客さんがいれば、心の耐久力は全回復する。

 私も、あのおっちゃんみたいになりたい。なろう。今度から、積極的に声をかけてみよう。基本、陰キャなのでうまくできるかどうかわかんないけど。お仕事モードで行くか!それならたぶん平気だ!(*゚∀゚)=3 そしておっちゃん、見た目で判断してごめんなさい。反省してます。m(__)m


 マイルドヤンキーの背中に仏の慈悲を見た夜。

 私は温かい気持ちで、手にした半熟煮卵の袋を揺らして帰った。


※画像はイメージです。セブンイレブンかもしれないし、違うかもしれない。そもそもお借りした画像。

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