見出し画像

小説「北の街に春風が吹く~ある町の鉄道存廃の話~」第6話-①

・第六話 存続協議会 その三


足毛の町が近づいている。僕らはこの海岸付近にある稲荷神社に寄り道をした。この神社は映画のロケ地にもなったことがある。参道の途中に鉄道の線路が横切っていて参拝客はその線路を横切って渡る風景が印象的な神社だ。

しかし、今は廃線となり線路も撤去されたために、普通の参道に変わっていた。

「ここが見たかったの?」

「ああ、昔一度だけ来たことがあってな。線路が廃止になった跡は、どうなっているかと思ってたんでな」

 親父はしみじみと昔を思い出しているようだった。僕はどうしたら、このようなつくりになるのかが分からなかったが、たぶん昔からある神社の参道に線路が敷かれ参道を横切ることになったのだろうと推測した。鉄道を敷くために、当時多くの人が用地を分断され、取られたと聞いたこともある。そこまでして敷いた線路をあっさりと廃線することと聞いた地主の人はどのように感じたのだろう。

 トイレ休憩をして、再び車を走らせる。僕は親父に運転の交替を申し出たが、親父はそれを断りハンドルを握り続けた。あと十分もあれば到着しそうだ。僕と吉田さんは協議会の経緯を親父からずっと聞いているが、時間が足りなくなるのでは心配になる。

「なにか鈴井知事って、テレビで見るのとイメージが違うんだけど。結構、上から来るの?」

「そうだな。俺も直接話したことなど無かったし、もっと若くて紳士的なイメージだったんだが、やはり若くして知事になるだけあって、ある意味で凄味がある人だったな。とにかく急に知事が参加することになったものだから、お父さんも緊張はしたんだけど、結果から言えば、好都合だったのかと思う」

「えっ、どういうこと? 早く続きの話をしてよ」

「分かった、分かった。俺が話を始めたところからな……」


                                                 *


「では、改めて瑠萌線の存続協議会を再開させていただきます。今日はリモートですが鈴井知事にも参加して頂いて活発な議論を交わしたいと思いますのでよろしくお願いします」

 司会を務める横田が改めてあいさつを行った。瑠萌市長の大西にも自治体出席者の列に椅子が追加された。

「すいません。会議の冒頭で私から良いでしょうか?」鈴井から再度の申し入れ。

「はい、なんでしょうか?」横田が対応する。

「みなさん、ご存じかと思いますが、私は知事になって二年も経ちませんが、知事になる前、夕波里市長として夕波里線の支線を廃止したことがあります」

 皆、同知事の経歴は知っているので、驚きはしない。

「正直なところ、あの時の判断は正しかったのかどうかについて今でも不安になることがあります。鉄道が無くなったことで、不便になった方は多くはなかったと考えていますが、少なからずいらっしゃったことは事実ですから」

 鉄道を維持したいのか、廃止すべきなのか。この鈴井の発言の意図は理解できない。

「人口減少が始まった日本で、私がローカル線に下した方針が先例となって、この先もずっと続くことになりはしないかとも時々不安になります。鉄道をいったん廃止すればバスまたは自家用車で移動するしかありません。道知事となり、少しだけ広い視野で考えて稀有することは、近年の異常気象のことであり、高齢化社会における移動手段のことです。この両方の視点から鉄道を残せないかと迷ったりしている心境です」

 鈴井はまだ若い。ここまで聞いて会議の出席者は、若いからこそ今の判断が将来の北海道に大きな影響を与える気持ちの揺れを正直に告白しているのだと理解した。

「知事として力不足で申し訳ないとも思いますが、みなさんには高齢化社会、環境問題、そして子供たち若い世代への継承という三つの観点で会議を進めてもらいたいと思います」

「素敵なあいさつをありがとうございます、知事」

鈴井の冒頭あいさつに対し横田は心の底から感謝を述べた。鈴井の心の揺れが会場全体の雰囲気をより真剣な議論へと誘っている。

「では、石井課長から提案のほどよろしくお願いします」


つづく

雄二はいったいどのような話を鉄道会社に対して行うのか?
全国の沿線自治体の方も参考になるはずです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?