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小説「北の街に春風が吹く~ある町の鉄道存廃の話~」第6話-②

・第六話 存続協議会 その三


「では、石井課長から提案のほどよろしくお願いします」

「はい。改めまして沼太町産業創造課の石井でございます。今日は瑠萌線の存続協議会でこのような場で提案をさせて頂けることを光栄に思います」

 多少の高揚感はあったが、横田のおかげで自分が落ち着いていると感じることができた。

「我々は、鉄道については素人ですし、当然経営についてもしかすると見当違いのことを考えているだけかもしれません。しかし、昔から利用している鉄道が無くなることで一番困ることになるのは私たちですので、応援する意味でこちらから鉄道に対しての提案をさせて頂きたいと思います」

 雄二はゆっくりとした口調でひとつひとつの段取りを確認しながら思いを口にしていく。

「我々は町内の様々な地区で懇話会を開催し、鉄道の存続そして廃線についての意見を聞いて来ました。そして、存続させるための切り口として、いったいどのような鉄道であれば乗るようになるかという点についても意見を交わしました。例えば沼太町から朝日川まで夫婦で買い物に行こうとなれば、鉄道で行くよりも車で行った方が「早いし、安い」ということで、わざわざ列車を利用したいという人はごく一部という結果でした。買い物には荷物が伴うので車の方が便利であるという意見も多かったです」

 他の沿線の首長が複雑な表情を浮かべる。事実、住民の鉄道に対する意見を述べる人はごく一部であり、ほとんどの住民はすでにあきらめたためか、元々鉄道に関心がないのか、無関心とさえ思える地区もあった。雄二の話す内容はどの自治体も同じ状況であった。

「確かに現状では、深河までの学生さんの通学を除けばほとんど利用者がいないというのが実状であり、瑠萌市の大西市長と同様で市民に対して鉄道を利用してもらいたい思いを様々な形で伝えてきたつもりですが、その成果はあがらず残念な気持ちでいっぱいです」

 ここまでの内容はとっくに分かっていると言いたげな表情で鉄道会社の出席者は聞いている。

「でも、私たちは鉄道にいつまでも乗り続けたいという気持ちでいます」

「だから、その利用状況では会社として採算がとれないということをずっと申し上げてきたつもりです」

 発言が途中でたびたび遮られる。

「どうか聞いていただきたい。私たちは素人なりに何か鉄道に協力することはできないかと考えたのです。今からその提案についてみなさんと一緒に議論をさせて頂きたいと思っています」

「議論って……、一方的に言われても……」

雄二はここまで自分が考えたように話を進めていた。そして、ここから提案の本題に踏み込む。

つづく

ここからが協議会の見せ場です。雄二はいったいどのように鉄道会社を相手に交渉を進めるのか?


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