〈叱る依存〉がとまらない
「こんな方にオススメ」
・自分の叱り方に悩みを抱えている人
・子供との関係を改善したい人
・部下や後輩とのコミュニケーションに課題を感じている人
①本書における「叱る」の定義
言葉を用いてネガティブな感情体験(恐怖、不安、苦痛、悲しみなど)を与えることで、相手の行動や認識の変化を引き起こし、思うようにコントロールしようとする行為。
②「叱る」が効果的な方法だと誤解される理由
最大の要因は、ネガティブ感情への反応には即効性があることです。
叱られた人たちの感情は「怒られる→偏桃体を中心としネガティブな感情(恐怖・不安)が起きる→本能的に「防御モード」(戦うor逃げる)の思考になる」である。
人間に限って言うなら、なんとか「逃げたい」と思う状態になることが多いでしょう。
では、「逃げる」とは何をすることでしょう。
一番手っ取り早いのは、「言われた行動をしてみることです。」もしくは「ごめんなさい。もうしません。」ということです。
それは「叱る側」の立場からすると、望んだ結果がすぐに得られたと感じる瞬間かと思います。
つまり相手が学んだと勘違いするのです。
すると、叱る側は自分の行動が相手の望ましい行動を生み出していると感じます。
そのため、この状況は叱る側に強い充足感(自己効力感)を与えます。
「叱る」に限らず、「自分の行為には影響力がある」といった感覚は、人間にとっても心地よいことで、次の新たな行動のモチベーションになるからです。
③なぜ学びや成長に繋がらないのか
叱られる側の行動は防御モードによる「苦痛からの回避」にすぎません。
ここで学習するのは、「本来はどのように振る舞い、どうすればよかったのか」ではなく、「叱られたときに、どうしたらよいのか」というその場しのぎの対処法です。
適切な行動を学んでいないということは、また同じような不適切な行動を繰り返す可能性が高いということです。
④子供へのしつけの本質は「社会規範の獲得」
社会規範の獲得は本来、一つ一つの行動やルールの意味、理由を考え、咀嚼することで自分のものにしていく過程です。
つまり、主に知的な理解によって習得されうるものなのです。
この、しつけの本来の意味からすれば、人の「防御モード」を発動させる「叱る」や「罰」が果たす役割はとても小さいのです。
⑤叱るときの注意点
そもそも「叱る」が役立つ状況や用途はとても限定的です。
目の前の危険な状況「危機介入」。
特定の行動をしないようにしてもらう「抑止」の二つだけです。
逆に言えばこの二つに当てはまらない場合は、「叱る」意味があまりないことになります。
そのため「叱る」はあまり多用せずに、あくまで危機的な状況への対応に限定することが望ましいのです。
目の前で起きていることが「危険」かどうかの判断基準としては、「自傷他害」が挙げられます。
こうした危機介入として、「叱る」はとても有効な方法ですが、あくまで対症療法でしかありません。
根本的な問題解決方法ではないので、問題となる状況がなくなった時点ですぐに「叱る」をやめなくてはいけないのです。
例えば、危ない所に上ったのなら降りた瞬間などです。
次に「叱る」の抑止力について考えてみましょう。
人は叱られると、その特定の行動とネガティブ感情が結びついてその行動をしなくなる傾向があります。
そこで重要なポイントは、苦痛を予想することで避けるようになる点です。
つまり実際に苦痛を与える必要はないのです。
叱られる人の立場で考えると、何をどうすれば叱られるのかが明確に理解できていることが大切です。
具体的な対応で言うと、どんなことをしたら叱られるのかをあらかじめ伝えておくことが必要となります。
ということは、実際に叱らなくてはならない状況を招いてしまった時点で、本来は「叱る人」の失敗だと考えるべきです。
⑥そもそも問題が起きる前に
「叱る」という行為は、何か問題となる行動が起きる前ではなく、起こった後にする行為です。
このように、事の前後を区別して考えることはとても大切で、この違いを「前さばき」と「後さばき」という言葉で表現します。
前さばきとは、事前に物事を予測しそもそも問題が起きないように対応するのが、前さばきの発想です。
一方で、問題となる行為があった後に周囲がどのような対応をしたのか、もしくはその子にどんなことが起こったのかを考えるのが「後さばき」です。
「叱る」や「褒める」は、この後さばきの代表的な方法と言えます。
『まとめ』
「叱る」は過大評価されている。
叱るをできるだけ避けたほうがいい第一の理由は、論理的、道徳的なものではなく、単純に効果がないからです。
そして効果がないかわりに、副作用としての弊害は大きいのです。
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