UNTITLED REVIEW|白いものたちの
雪深いまちで一度だけ冬を越したことがある。確かに現在いる場所にも雪は降る。でも、夜半過ぎから早朝にかけてのどこかの時間帯で聞こえてくる除雪車のエンジン音に眠りを妨げられることもないし、朝の通勤がスノーブラシを使って車の雪を下ろすところから始まることもない。かつて暮らしたまちには雪が深く根を下ろしていた。今では朝目覚めて、辺り一面が雪に覆われたりしていても、それを非日常空間を作り出すためのサプライズ演出のように感じてしまう。
ふたつの世界に降る雪に(物資としての)違いはない。そして、雪が降ったあとは、すべてのものが「白い」という形容詞の連体形で言い表わせてしまうことも。でも、同じ白でも僕の中ではまったく別の存在である。互いの世界が繋がっていることを意識させる唯一のものは、雪が降り積もった直後の静寂。地球全体が生々流転をやめてしまったかのようなあの静けさ。
この物語を読んでいるとき、にわかに遠い昔に住んでいたまちを思い出した。本はこれまでに出会ったことのない不思議な作りをしていた。短編小説集のようでもあり、散文を集めた詩集のようでもあり。一度目は要領を得ないまま、あとがきに相当する《作家の言葉》まであっと言うまにたどり着いてしまった。そこで著者のこの本への想いを知った。
続けざまに二度目の再読を始めると、本のかたちが薄っすらと見えてきた。視点が一人称から三人称へと移ることの意味を反芻しながら、白が覆う世界へと再び歩を進める。1巡目で見過ごしていたこと。そして、感じなかったこと。なぜ今いるところに降る雪ではなく、遠い昔の記憶の中に降る雪を思い出すのか、少しわかった気がした。
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