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幸福と羞恥

朝を報せる鐘は鳴る

音の出どころは誰も分からなかったが

いつも鳴っているという

赤トンボの羽で濃淡を引いた鱗雲が似合う

化粧台に掛かる1枚の絵を思い出して欲しい


窓辺から晴の塊は浮かぶ

思い出す行為を勉強していた時のように

誘惑にまかせて服を脱衣する

私はまだ眠ったまま


朝を報せる鐘は鳴る

人の往来を天鵞絨で覆われた無言の冬

私の元に届いた生命の産声

そよぐ大海の飛沫が

家々に届けてゆく

絵の具で固まった睫毛を一本濡らして

生まれただけで許してもらえたらよかった

生命は廻る廻る世界で不純に鳴る

掌を胸の前で合わせて

太陽に

今日も感謝の雨を報いるなんて

粘土で作った神様は掌を私に広げるの

許してあげます

と言った後りんごの木が植わった庭に稲妻を軽く落とす

何にもできない裸のままの私

生命を戻す準備を始めよう

生まれたことは許されても生きることは自分で決めたい

りんごを食べる連鎖は終わり

朝の鐘を報せる音は

私の中で炎のように揺めき響く

響く

響く

私はなんて幸福なんだろうと思う

とうとうここまでボケたのかしら

いいえ

私を怪物扱いしないでくださる?

あなたたちが冷静になりすぎたのよ

優しいは誰かのためにあるの

優しいですね、これからも私に優しくしてくださいという洗礼の雨を誰もが待ち望んでいる

無償の愛を提供している罪は深い






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