マガジンのカバー画像

Letter to ME

100
自分へ贈る日々の備忘録
運営しているクリエイター

2014年12月の記事一覧

やさしい他人

先輩、私のこと嫌いですもんね、と言うと、先輩は、そんなこと言わせてごめんな、ときざなセリフを言う。痩せている後輩に、マッチ棒みたいだねと言うと、お恥ずかしいですと彼女ははにかむ。大して仲良くない同期に赤ん坊が生まれたので、今度職場に来たらぜひ連れてきてね、と言ってみる。嫌いな上司にも気配りを忘れない。好きな先輩にはちょっと冷たくする。苦手なアルバイトさんにも良いお年を、と声をかけると、アルバイトさ

もっとみる

毎日、毎晩、自分の所作を思い出しては死にたいほど恥ずかしくなる。人生は恥の積み重ねだと常々思う。ある人はそれは成長の証だと言ったが、大層な欺瞞だ。そんな言葉が聞きたいわけじゃない。そうして私の脳細胞がどんどん死んでいくんです。

わたしのために

人はとどのつまり、自分のためにしか生きられないのだと思っていたし、今でもそう思っている。結局人は、独りでいるということをやめられない。人は物理的な意味でもその人一人で完成されていて、入れ物に守られた心もまた、外に出ることはできない。外に出ることができたとしても、自分の思考が相手の思考にたどり着くこともないし、その逆もない。自分のことをよく知っているのは自分だし、よくわからないのも自分で、すべて自分

もっとみる

とおく

確か私が小学四年生の頃に、父と母と私の三人で、自転車に乗って隣の市の運動公園に遊びに行った。私は運動音痴だったので自転車に乗れるようになったのが遅く、やっと安定した運転ができるようになったから、父が計画してお弁当を持ち、三人で日曜日にでかけたのだった。お天気の日で、私はヘルメットをつけて、赤いミニーちゃんの自転車に乗っていた。父が先頭を走り、母が私の後ろを走る。大通りは車が多いので、住宅街の間や竹

もっとみる

ドラマチックに生きる

よく一人で意味不明な瞬間に感極まって泣きそうになる。たとえば、別の課のちょっと嫌な上司の話をしているときに、もし自分がその人の下で働くことになったら、と考える。今でも、違う課なのに結構いじめられるので同じ課になったらコテンパンになるだろうな、と思って、そうしたら私は誰かにちゃんと訴えられるだろうかと想像する。できるのか、できないのか、わからないけれど、そんな状況に追い込まれたら自分がとっても可哀想

もっとみる

ひびわれ

ひびが入る音がする。話が微妙にかみ合わない先輩の無表情を見たとき、優しい先輩の溜息を聞いたとき、面白くもないことでけらけら笑う後輩の声が響くとき、無音だけど、ひびが入る音がする。どこだろう。私はそのひびを直そうと思うけど、どこにひびが入ったのかわからない。わかったところで、直せないだろう。私はたぶん、無機物ではないから。

自分が驚くほど冷酷だと思う。その反面、とても情熱的だと思う。きっと私は有機

もっとみる

きれいじゃないもの

ずっときれいになりたいと思っていた。今もそう思っている。だけど、そう思いすぎてきれいってものがなにかがよくわからなくなってきた。でも、きれいになりたいと思っていたの。わたしはね、ほんとうに。
色んなものが偽物に見えて、きれいなはずなのにきれいに見えないし、味がしないし、動かない。なんでなのかはやっぱりわからない。わたしが、どこか、間違えたのだろうか?

まっすぐに道を歩むことができていると思ってい

もっとみる

やさしくできない

仕事帰りにコンビニでお菓子を買ったら、おいしくなかった。ぞうきんみたいな味がした。なのに、全部食べてしまった。すさんだ自分にはそんなのでちょうどいいと、冷めた緑茶で流し込んだ。

今日、久しぶりに月を見た。夜なのに、車以外の明かりで街が明るかった。上から降り注ぐ、うつくしい銀色の光は、まごうことなく月の光だった。冬の月は高い空から私たちを銀色に染める。空に渦巻く雲が、まるで恐れをなして月から逃げる

もっとみる