とおく

確か私が小学四年生の頃に、父と母と私の三人で、自転車に乗って隣の市の運動公園に遊びに行った。私は運動音痴だったので自転車に乗れるようになったのが遅く、やっと安定した運転ができるようになったから、父が計画してお弁当を持ち、三人で日曜日にでかけたのだった。お天気の日で、私はヘルメットをつけて、赤いミニーちゃんの自転車に乗っていた。父が先頭を走り、母が私の後ろを走る。大通りは車が多いので、住宅街の間や竹藪がある道を通って、一生懸命坂道をこいだりした。途中父が止まったり、母が隣に並んだりして、自転車の大冒険はとても楽しかった。車で遠出をするのはあっても、自転車で出かける、というのは十歳の私にはとても刺激的だった。片道一時間ぐらいだっただろうか。お昼にはお弁当を食べて、バドミントンやキャッチボールをした。母の卵焼きはとてもおいしかった。今でも好きだけど、そのときの卵焼きが一番おいしかった覚えがある。帰りもゆっくり帰ってきて、気難しい父も始終笑顔だったと思う。

今思えば、歳の離れた姉とは遊ばず、友達も多くない私は土日に家にいることが多くてあまり出かけなかったし、父と母が気遣ったのかもしれない。子どもとしては何も思っていなくても、小学生としての楽しみは小学生のうちに味わっておいた方がよいし、自転車での行動は小学生の特権のようにも思う(大学生の時も自転車は必需品だったけれど、意味合いが違う)。

なんでこんなことを思い出したのかというと、今日、友人と仕事帰りに出かけたときに、父と母と自転車で通った道に似た道を走ったからだった。おそらくその道そのものではなかったけれど、竹藪の感じが似ていて、ちょっと懐かしかった。今、私は自転車に乗ることはなくて自動車で、自転車で行くよりも早く、自転車よりも遠くに行くことができてしまう。友人の運転に少しひやひやしながら、それでも、ぼんやり車窓を眺めている。外の空気も、景色の匂いも感じないまま。遠くにきたな、となんとなく思った。あの頃の、純粋に楽しいとか好きだとか、思う気持ちも、遠くにいってしまったのかな。あんまりわからないけれど、私は今、どこにいるだろう。