ひびわれ

ひびが入る音がする。話が微妙にかみ合わない先輩の無表情を見たとき、優しい先輩の溜息を聞いたとき、面白くもないことでけらけら笑う後輩の声が響くとき、無音だけど、ひびが入る音がする。どこだろう。私はそのひびを直そうと思うけど、どこにひびが入ったのかわからない。わかったところで、直せないだろう。私はたぶん、無機物ではないから。

自分が驚くほど冷酷だと思う。その反面、とても情熱的だと思う。きっと私は有機物だ。そう思っている。ひびは直っても、治らない。小さな痕になる。ひきつれができる。たまにそこから腐るときがある。腐ってしまうと、冷酷になる。冷やせば少し、傷の痛みが引くから忘れられる。次にひびが入るまで、私はきっと、先輩の無表情にも笑顔を向けられるし、溜息もかき消すほど声かけができるし、後輩を本当に面白いことで笑わせられる。そうして生きながらえる。傷ついて、泣いて、また、笑える。そういう、ものですよ。