やさしくできない

仕事帰りにコンビニでお菓子を買ったら、おいしくなかった。ぞうきんみたいな味がした。なのに、全部食べてしまった。すさんだ自分にはそんなのでちょうどいいと、冷めた緑茶で流し込んだ。

今日、久しぶりに月を見た。夜なのに、車以外の明かりで街が明るかった。上から降り注ぐ、うつくしい銀色の光は、まごうことなく月の光だった。冬の月は高い空から私たちを銀色に染める。空に渦巻く雲が、まるで恐れをなして月から逃げる。うつくしいものは怖い。怖いほど、うつくしい。冬の夜だった。私が愛している、冬の夜だった。うつくしいものを眺めれば眺めるほど、自分の矮小さが嫌になる。誰かに、優しく、なれるだろうか。

私は優しくない。優しくなんかできない。優しさを求める人にはなおのこと。だから、私にも優しくしないでほしい。優しさを求めさせないでほしい。どうして、この世には優しい人がいるのだろう。どうして、人は、ひとりきりで生きていけないのだろう。ひとりのくせに、ひとりでいられないのは、どうして。答えがほしいわけでも、説得してほしいわけでもなくて、ただ、私は今夜の月のように、誰にもあまねく降り注ぐ銀色の光とともに生きていたいだけだ。

そうしたら、優しくなれるような気がしているだけだ。気がしている、だけだ。