見出し画像

【随想】小説『満願』米澤穂信

第27回山本周五郎賞を受賞した米澤穂信の「満願」を読む。
短編集である。
買ったのはだいぶ前だ。
米澤穂信という作家は、あまり聞き馴染のない言葉を使う作家なのだな。
梁、マタボール、及時雨、墨痕、矍鑠、筵、長押、林冠、隘路、眦、霏々など。
知らない単語が出てくると少し躓いてしまう。
海外小説や学術書で注釈を逐一読まないと分からない状態と同じだ。
するっと物語に没入できない。
意味がきちんと理解できていなくても、物語を読むのに特段支障が出るわけではないが、読みながらちょっとずつしこりが残るような感覚があった。
ちゃんと理解できているだろうかというしこりだ。
また、文章のタッチはリアリズムなのだが、読み終えた時の感覚は非現実的なものだった。
現代の寓話を読んでいるかのような感覚と言えばよいか。
「このミステリーがすごい!2015年版1位」
「週刊文春ミステリーベスト2014年1位」
「ミステリが読みたい!2015年版1位」
完全にミステリーだと思って読んでみたが、トリックも犯人も推理も特に出てこない。
事件や出来事は勿論起きているが、それ自体に比重が置かれているわけでもない。
どの物語も、読み終わった後に、登場人物と一緒に「こんなはずじゃなかった」と思わず呟いてしまうような、そんな作者の誘導(語り口)が巧みな小説だ。
読者の予想を裏切ることが、エンタメの極意なんだなと実感する。
綺麗な川でふと石をひっくり返してみたらそこに虫がびっしり張りついていた時のようなぞくっとする裏切り。
作者によって綺麗に舗装された道(静謐な文章)を安心して進んでいたら、足元をすくわれる。
「こんなはずじゃなかった」と後悔しないように、気をつけてお読みください。


この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?